本

『私の聖書ものがたり』

ホンとの本

『私の聖書ものがたり』
阿刀田高
集英社
\1470
2004.11

 すでに、聖書についての紹介本をいくらか世に出している著者である。信徒というわけではないが、聖書がすばらしい文化であることを認め、それを、分かりやすく伝えようと努力している。実に頭の下がる仕事である。伝道熱心な信徒が聖書を伝えようとしても、そこに温度差があれば、場合によっては相手は引いてしまう。そこへいくと、この著者のようなスタンスは、案外いい。
 よく勉強もしてある。信仰を勧めるかどうかは別として、聖書の内容の尊厳を守りつつ書いてあることを忠実に紹介しようという姿勢は、ほんとうに貴重である。
 さらに、この本は、ふりがな付きで少年少女に十分分かるような書き方で、分かるような言葉で、問いかけながら語られている。これだけ易しい言葉で説明するというのは、実際は非常に難しいことであることを、私は知っている。
 そして最大の特長は、この本が、手塚治虫の仕事を甦らせたいとの願いと共に作られたことである。
 手塚治虫は、晩年、イタリアのテレビ局の依頼で、旧約聖書物語のアニメ化を担当している。存命中は、ノアの物語だけしか完全には手がけられなかったが、十分彼が指導した中で、シリーズは完成され、高い評価を受けている。しかし、文化的な問題もあってか、これは日本では一般にあまり知られていない。
 阿刀田氏は、これを惜しいと思ったのだ。そこで、この本には、その旧約聖書物語のアニメコミックス版(私はこれを全3巻所有している。良い本だ)からの幾多の頁を収めつつ、大部分は著者が文章として記すことによって、手塚作品に再び光を当てることを試みている。
 ただ、このアニメシリーズは、旧約のみである。著者は、その旧約という意味も十分丁寧に説明した上で、手塚プロダクションの協力により、その続きの新約版も制作してもらった。これもなかなかよい出来だと思う。
 聖書という本には何が書いてあるのか、難しい背景や思想には触れず、内容についてただ知りたいという方は、この本で十分過ぎるほど分かるだろう。関心があれば、そこからまた別の解説や資料を求めればいい。もちろん、小学生でも読むだけで面白いものとなっている。




Takapan
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