本

『ベストセラー全史【現代篇】』

ホンとの本

『ベストセラー全史【現代篇】』
澤村修治
筑摩選書
\2200+
2019.6.

 なかなか分厚い本であって、できるだけ均一に、時代を飾るベストセラーを辿ってくる。もちろん、その背後にある世相や、出版界の事情も加えてあり、どうしてそうした本が売れたのかの分析も加えられている。が、独断により決めつけるような傾向はなく、読者は安心して、歴史を知ることができるように配慮されていると思う。
 ここでいう「現代」とは、戦後から、平成の終わりまでのことである。私自身が経験したことも多いので懐かしい思いで見ることができるし、当時のことがまざまざと甦りもする。しかしさすがに戦後間もないような頃のことについては、直接の経験がなく、話に聞いたという程度でしかない。だから戦後日本人が何を求めていたのかについてもなるほどと思わされることが多かった。食べ物もままならぬような時代に、人が本を熱心に求めたという様子も窺えて、感慨深い。
 あるいはまた、私が青年期に、お薦めの本ということで紹介されていたものが、こうした時代の産物であるなどということもあるわけで、背景を知る契機にもなる。もとより、私がそのようにして影響を受けたのはさらに昔、大正期であったりするのだが、戦後の事情というのは、知っているようで知らないことが多かったように思う。
 映画やドラマに影響を受けて本が売れるというのも、昔ながらであることを試みた知るが、そのうち私の知る範疇に入ってくると、かなり実体験を伴って感じることができる。となるとまた、昔は皆同じ本を見ていたのだと納得する。こうしたベストセラー、私自身、かなり見ているのだ。あるいは、買っていたのだ。
 新書が思いのほか、数としては売れていることを改めて知る。ベストセラーとなると、単行本かしらと思っていたが、仕掛けられた新書というものが案外多いのだ。文学的なものが売れるのは、計算によらず、何かしら偶然的な要素があるようにも見受けられた。
 やがて21世紀に入る。ここでまた新書ブームが始まる。売れる本というのが、高価なものでなく手軽な、しかも素人に分かりやすく解説されたもの、持ち歩けて気軽に読めるものが本の代名詞となっていく時代となっていくのだ。やがて、電子書籍との対決もあるが、著者はそこに争いを見るというよりも、棲み分けを考えているようである。現状たしかにそうであるし、私の見聞でも、いま電車の中で本を開いている人は、一時よりまた多くなった。私も、電子書籍だと書評を書くのにやりにくいことを承知している。確かにコミックスならば、電子書籍もよいだろうと強く感じる。ただ、それは出版の世界をいろいろ刺激し、変えていったという事実は否めない。
 村上春樹という個人名で、長期にわたり注目されているというのも、出版界では特筆されることなのだろう。一時的なブームというでなく、これほど長きにわたりトップの輝きを誇る作家はめったにいない。
 それから、著者も仕方なく触れなければならないが、大川隆法と池田大作は、ずっと売れた本の上位に名を出し続けているのも確かだ。特定の宗教団体で、しかも書物による伝道という方針がハッキリしているので、要するに信者がひとりで十冊でも二十冊でも購入して知人に配るというようなあり方で、売上げが伸びているということもあるだろう。組織というのは、一般の傾向とは食い違うところに基準があるので、一概に売れた本だとか世相だとかいうふうには捉えがたいものであろう。しかし前者は、よくぞあれで名誉毀損として差し止められないのか、不思議で仕方がない。信仰の自由と、誰でも彼でも有名人を好き勝手に利用してよいのとは違うはずなのだが。
 索引を入れると500頁を超える大部であるが、その割には格安にできていると感じる。出版に関する資料としてもなかなか頼りになるものである。巻末には豊富な資料もあり、この力作は広く手に取られて、あるいは手許に置かれて然るべきではないかと思うものである。




Takapan
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