本

『バクノビ』

ホンとの本

『バクノビ』
坪田伸貴
KADOKAWA
\1400+
2017.11.

 子どもの底力を圧倒的に引き出す339の言葉。このサブタイトルの通りに、単発的にアイディアが並べられている。時折解説が入るが、ほぼ、「教え」が並んでいるだけである。
 その内容も、言われている通りであるが、これは学力に関する本である。その他の面についての本ではないから、勘違いをする人が現れないとも限らない。その辺り、表紙に明示する必要があったかもしれない。
 ビリギャルという語を流行らせ、本が売れたばかりか映画にまでなった、その人が著者である。やる気のない子、学力的にそうとうに厳しい子の学力を奇跡的に上げて、当初は思いもよらない大学へ合格するまでに高めた事実が、これだけの影響を及ぼしたのである。確かに、時折そのような子は現れる。すべての子どもにそれが有効かどうかは分からないから、過信してはいけないが、方法論としても悪くない。ここに並べられている知恵は、私の経験からいっても、妥当なものであると言ってよい。
 絶対ムリだと諦める必要はない。「できる!」という体験は大切だ。但しまた、根拠のない夢に惑わされて、ムリな受験を求めるというのも感心はできない。合格というのが、絶対的な基準によらず、相対的な順位に基づくものである以上、適わないということは当然あるのだ。だから、誰でもやる気をもてば何でもできる、と励ますことはよろしくない。しかしまた、だからふてくされて「どうせ」と呟く人生を送るようなこともそれ以上によろしくないという信念が、学習面においてこのような知恵となって表に出てきたのだ。それはそれでよいと思う。
 本書は、みずコミュニケーションの改善を図る。これは大切なことだ。これなしでは、策も何もない。そして、具体的な学習の仕方というよりも、動機つまりモチベーションを高めるほうから入っていく。そもそも学習する前提というものが問題であることが多い。学習内容は万人に共通であっても、それを受け取ろうとする個々人の状態は千差万別なのである。まずは容器のほうを調えなければ、素材を入れても受け付けなかったり漏れ溢れたりするというものだ。メンタルな面で心を開き、上昇志向をもつことができたら、そこから素材を流し込んでいけばよい。
 そして勉強とは何かを考えてみる。著者は「学習」という言葉のほうを勧めるが、これも私は賛成だ。著者とは違う説明を私はするかと思うが、確かに「勉強」という語は、語源的にも用法的にも、やる気を育てる方には働きにくい言葉なのだ。
 それから、実際に成績を上げる手法に入る。各教科、またやることに沿って、一つひとつ丁寧にアドバイスしていく。それはまた、科目により、そして同じ科目でも扱う内容や事柄によって、様々なのだ。つまり、ここはノウハウというわげてある。
 そう、世にある学習法は、まずノウハウから入ろうとする。それを見て、うまい方法だと飛びついていくものだが、そもそも本人がそのハウツーに合っているかどうかは検討されないものだから、あれこれやっては、自分に合わない、自分はだめだ、と悪循環に陥っていく。
 確かに、本書の著者は、人の心理を含め、学習意欲や効果についての扱いが巧い。最初から順に読んでいく必要はない、と最初に傍点付きで記してあるが、私はおそらく、できる限り順に読んだ方がよいのではないかと思う。但し、深刻に考えながらでなくてよい。さらりと流してよいのだ。しかし、著者のスタンスや見ている世界をなんとなくでもよいから感じながら、具体的な方法論に入っていったほうが、より効果的なのではないかと思われるのである。
 それでもなお、一つひとつを具体的に信奉する必要はない。何かしら、できそうなことがあったら、そして自分が賛同できることがあったら、試してみたらよい。また、心の支えにしたらよい。概ね間違ったことばかり言っているわけではないのだから、要するにこの啓発本により、やる気が出てくればよいのである。願わくばそれがすぐに終わらず、長続きすればと思う。また、中高生だけの問題ではなく、大人もまた、一歩歩み出すために何かしら刺激になるならそれもよい。中高生の親がこれを読むのも悪くない。学び続ける人生であろうとするなら、志はきっと変わらないからだ。
 過信は禁物だが大いに刺激として試してみたらよい。自分に自信がない人が、少しでも歩み出すことができたらと願う。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります