本

『あやす・あそぶ1』

ホンとの本

『あやす・あそぶ1』
藤田浩子編著
保坂あけみ絵
一声社
\700
2003.3

 シリーズ名として「人と人とのかかわりを育てる」と冠してある。地味なブックレット状の本だが、これが実にいい。こんな簡単な、大切なノウハウとメッセージが、どうしてこれまで出されてこなかったのだろう、と、私はコロンブスの卵状態になっている。
 ふんだんに示されるイラストが、実際の赤ちゃんとの触れあいを温かく描いてある。言葉を尽くしても示され得ないニュアンスや空気が、イラスト一つで全部伝わるから面白い。この本は、子育てを楽しくするという、あまりにも当然のことを目標にして編集されている。私がもし、今一人目の赤ちゃんを育てている立場だとしたら、涙を流して喜んだかもしれない。
 それは、3人目を育てている私たちだからこそ、体験の中で心得た子育てに必要なことが、明確に記されていることからも証明できる。赤ちゃんと親との関わりは、知育やビデオなどでは養えないものなのだ。この本は、試しにテレビを戒めている。赤ちゃんのためにテレビは一切要らない、というのだ。たしかにそうだ。それは百害あって一利なし。幼い子どもにコンピュータゲームが有害無益であるのと同様に、赤ちゃんという時期には、もっと心の通った声かけが必要なのだ。話しかけたって分かるものか、という、一見合理的な考え方もある。だから、無言でミルクを与えておいても子は育つ、と自信をもって主張する人もかつては、いた。とんでもない。人間は機械ではないのだ。人間を育てるというのは、ロボットのようなプログラミングによって可能となることはありえないのだ。
 赤ちゃんは、音をよく聞いているという。語りかけももちろんだが、歌ってあげることがまたよいのだとこの本は告げる。無意識のうちだか、私たちも、子どもたちに歌って話しかけていた。生活の一コマには、決まったテーマソングがあった。おふろに入るとき、着替えるとき、泣いてむずがるのをあやすとき、静かに寝かせたいとき、それぞれの場で、私はオリジナルの歌を作っている。それはたいてい、とっさに浮かんだものだ。机の上や楽器を前にして、汗水垂らして構成した曲ではない。だが、12年前の長男のときと同じ歌を、今の零才児にも歌っている。語りかけることが、妙なお説教にならないためにも、歌はいいと思い、実践してきたのだ。その歌をじっと聞きながら安心して眠る子どもたちを知っているから、歌や語りかけが赤ちゃんにとって大切なものであることは、経験的に知っていた。それがここに、はっきりとメッセージの中で告げられている。
 育てるには「ばか」になりなさいとこの本は告げる。強烈な言い方で、大切なことを聞き逃さないでほしいと願っている。赤ちゃんに熱心に語りかけるなど、バカなことにちがいない。でもそれが、たしかに「ひと」を育てるのだ。
 話は違うが、塾でも同じ。どんなに返答がなくとも、教師は語りかけていかなければならない。すぐに反応がないからといって子どもに責任を負わせたりしない。待つしかない。ただ与えられた出会いの時間に、こちらからのメッセージを精一杯語りかけ、そして、子どもたちからの言葉に出ない声を聴く耳をもつ。それが、人を育てるエッセンスだと考えている。赤ちゃんの場合も、大差はないことなのだ。
 このシリーズ、ここでは「首のすわるころまで」の1巻を紹介したが、2巻は「はいはいのころまで」、3巻は「あんよのころまで」となっている。




Takapan
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