本

『あやしい商品が売れる、ごくまっとうな理由。』

ホンとの本

『あやしい商品が売れる、ごくまっとうな理由。』
山下貴史
日本実業出版社
\1365
2007.7

 マーケティングのコンサルタントが、けっこうな手の内を明かした本。
 どうしてあんなものが売れたのだろう、という理由が説かれている。そこには、尤もな理由があったのだ。ただ、その理由を踏まえたものがすべて売れたというわけではない。その理由を踏まえたもののうちの、あるものが、よく売れたというのが実情であることには、注意しなければならない。
 売る立場にいる人が、少しばかり、売られる側、つまり買う側の立場に立って考えたならば、どれも思いついていそうなことばかりではある。消費者としての立場で考えるかぎり、どれも私たちは体験的に知っていることばかりであると言ってもよいだろう。
 たとえば、臭いを気にする人が増えているのではなく、臭いを気にするように時代があるいは商品が、宣伝が、うまくもっていっているのだという、からくり。観光地などで缶飲料が高価なのも、それで売れるからだというのも、ある意味で常識的である。ただ、最近そうでもない場合も見受けられるけれども。
 値段を高くしないと売れない商品があるというのは、京都に住んでいたから常識である。京都では、庶民の意識がそうなのだ。これが大阪となると、事情が違う。プリンターが安いのも、インクで元を取ることだということも、パソコンを利用している立場からすれば当たり前である。
 行列をわざと目立つようにつくり、人気があると見せかけるラーメン屋のからくりも、当然と言えるだろう。サクラではないにしろ、ある客に儲けさせて他の多くの客を釣る手法も、知られた方法であると言ってよい。高機能の電化製品が売れる心理、衝動買いで多くの商品を買っているという事実も、経験上ふだんから知っていることであろう。
 脳トレの妙は、私が幾度も指摘しているような内容であるに過ぎない。
 最後のほうでは、言葉の使い方で有利に売ろうとする宣伝が紹介されているけれども、いまどきこんなことを知らずに宣伝を担当しているような人がいるとは思えない。
 尤も、いつか指摘したが、自転車店の組合だか、「安さより信頼で」とポスターを掲げているのは、やはり知らないのかなあという実例が存在することを感じた。自分の店は安くない、ということをわざわざ宣伝するのは成功しないのではないか、ということだ。
 このように、どうということのない本なのであるが、中に、稀に、専門用語あるいは理論のようなものが、ちらりと顔を見せている部分がある。こういうところをまとめておくと、何かマーケットについて考えるときの、よいヒントになる。
 素朴な事実であるがゆえに、これらを列記しておくことには、実用的な意味がある。
 これも私がよく言うことだが、宣伝というのは、宣べ伝えるという字を書き、福音を伝えることは、宣伝にほかならない行為である。キリスト教は今や「伝道」という言葉を廃棄しなければならない時代になったと思うが、それに代わり、まさに「宣伝」を必要としている事実がある。そのため、こうしたマーケティングの意識は、どうしても必要な知識となってくるものだと考えられると思う。
 そのためには、よい学びができる、分かりやすい本である。お勧めだ。




Takapan
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