本

『頭のいい子は図で育つ』

ホンとの本

『頭のいい子は図で育つ』
久恒啓一
全日出版
\1365
2004.3

 小学3年生から中学生の子どもとその親のために書かれている、と記されている。
 果たしてそうだろうか、と疑問に思う。たしかに、これは毎日中学生新聞に連載された記事をもとにまとめてあるものだ。だが、中学生のためという配慮は、ほとんど感じることがなかった。また、その親が子どもの教育のために役立てるという企ても、どうやら失敗である。これを読んだからと言って、親が中学生の子どもに何をどう伝えればよいのか、まるで分からない。もちろん、本人が読んでも、何が言いたいのかまるで伝わらない。
 これはたぶん間違いなく、大人のビジネスマンのための本であり、いわゆる啓発シリーズの中では優秀な本として扱われるだろうと思う。かなり情報整理というものの怖さや失敗を弁えて、この次にどのようにして情報整理をすればよいのか悩んでいるお父さんかお母さんに、ぴったりなのである。
 何故こんなふうに言うのか。たしかに、1項目4頁と決められ、ベン図などの図解が施してあるのは丁寧である。だが、それと中学生向けということとは訳が違う。議論はつねに抽象的であって、読んだだけでは何をどうすればよいのか、皆目見当がつかないのである。一度現場で情報整理に失敗した経験をもつビジネスマンであれば、そうだそうだと納得できることは数多い。
 案の定、著者は本来そうしたビジネスマンのための新しい知的生産の技術を試みて紹介している人である。教育者ではない。中学生の理解度や発達段階などを鑑みた本ではなかった。
 図をかくことによって作文までも巧くなる、というのがふれこみだが、私はこれを読んでも、では作文をどのように書いたらよいのかについては全く理解できなかった。
 というわけで、これほどタイトルと中身のずれた本も珍しい。教育に関しては、抽象だけで語ることは不可能なのである。著者は、様々な経験を積んで嘲笑的な表現で思い当たるフシがたくさんあり納得してもらえるビジネスマンのためには巧い語り口で解き進んでいくものだが、初めての人に伝えるという点では苦手としているようである。
 こうした背景を理解していないと、ずいぶん誤解して購入ということもあり得ると思った。これは子どもに効くような話ではない。専らビジネスマンの自己啓発のために有効なのである。
 もっとすべてにわたり、具体的に説明してもらえたら、まだ見所があっただろうに、と残念な気がする。




Takapan
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