『明日も一日君を見てる』
角田光代
角川書店
\1200+
2023.2
『今日も一日君を見てた』の続編である。8年のブランクがあった。出演猫は同じトト。赤ちゃんとして引き取ったときは2010年。一旦2015年にその本が出版され、トトという猫が万人に知られることとなった。
私は幸いなことに、これを同時に知ったために、連続してこの世界に浸り、読み切った。著者からすれば、なんで十年間も知らなかったのか、と憤られるかもしれないが、そもそもネコメンタリーを通じてトトを知り、さらにそのトトのことがこんなにも愛されブックになっているとは、知らなかったのである。
第一作は、各項目が「猫、○○」という形式だったのが、今回はコンセプトを変えた。
「○○と××事件」の形式になった。よくぞこれだけ事件が起こっているものだ。
トトちゃんについては、ここでご紹介するのは難しいが、どこかどんくさいとか、普通の猫とは違う態度のようだとか、なかなか馴染んでくれないとか、最初から魅力をバンバン振り撒いていたのだが、考えてみれば、それも著者の文学的才能というものの故であろう。
そう。これは猫愛好家にとってたまらない猫と人との関わりなのであるが、それにも増して、ひとつの文学なのである。もし猫について詳しく知らないという読者であっても、きっと楽しめる文章であろう。どうしても「猫」という動物が気に入らない人、たとえば犬の愛好家であったら、「猫」のところを「犬」と読んでゆけば、それなりに読めるのである。
もちろん、犬と猫とでは生態が違う。だが、著者が言わんとしていることは、十分感じ取ることができるであろう。
この続編になってから、漂う空気がある。幼い子どもであった時期の最初の本だと、やんちゃな子どもに手を焼き、どう育ててよいか分からない戸惑いと焦りが鏤められていた。しかしその後、トトちゃんは人間の何倍もの速さで歳をとってゆく。いつしか著者の年齢を超えた換算になり、60歳をも過ぎたという。自然、活動が変わってくる。寝る時間が長くなった、という程度でなく、随所で、生活態度が変わってくる。
この、猫の生涯を垣間見るような展開が、私にはとても新鮮であった。それだけ猫を、生まれたときから年老いてゆくまで見守ったという経験がないからである。何年も見ている地域猫はいるが、赤ちゃんのときから知っているわけではない。ボランティア活動の長い方は、そういう猫と付き合っているかもしれないが、私はそこまではいっていない。また、地域猫の宿命として、家猫ほどの長命は期待できない。
そこへいくと、トトちゃんは、まだ長生きできそうな様子でもある。すっかり大人、というばかりではない。著者は、この本では、しきりにトトちゃんについて言う。その言いたいことがよく分かるようになった、と。カタカナで鳴き声を表すのはやむを得ないが、それが何を言っているのか、しっかり聞き取れるというのである。しっかり猫と会話をしているのである。
病院に連れて行くことについて、猫は嫌がるものだ。このときが面白い。「病院」と口に出して家族が会話をしていると、トトちゃんは、やばいと知って逃げる。そう、猫は人間の言葉が分かる。地域猫でも、自分の名前は分かるし、「ごはん」という単語には敏感だ。ただ、このトトちゃん、「病院」と口に出して言わなくても、「病院」のことを考えているだけでも、察知するというのだ。こうなると超能力であるが、考えてみれば猫はそもそも人間の与り知らぬ能力をもっているわけで、すべてが人間にとっては超能力である。トトちゃんをも病院に連れてゆくときには、「病院」ということを考えず、無心で接し、いざ捕まえたら、予め準備していたケージにサッと入れるのだというのだ。この辺りの病者も、たまらなく面白い。
ただ、巻末の方で、トトちゃんが病気か、という事態を見守る話は切ない。そもそも猫は、腎臓がよくない。その画期的な薬が開発されるという話とつながるのだが、その試供品のようなものをトトちゃんが食べてくれない。毛布を洗っただけでもう近づかなくなった、というほど環境にうるさいトトちゃんである。いつものカリカリの中にその薬入りのカリカリを数粒入れたら、きれいにそれを残してしまうというのだ。しかも、いつものカリカリもちょっと残す。そこにトトちゃんの、「おなかいっぱいだから残したんだよ」という言い訳のようだ、と著者は受け取る。
ともかく、このトトちゃんの心情の説明が、本当にリアルで、読者も、きっとそう言っている、と信じてしまうようになる。
「昨日も……見てた」という本に続く第二弾は、「明日も……見てる」と形を変えた。明日、それはどうなるのか、少し切ないからこそ、このタイトルだけでも、なんだか泣けてくる。写真の頁もけっこうあるし、そこに著者の手書きの言葉が添えられている。これはもうすぐ文庫として発売されるそうだから、今度は文庫をまた開いてみようと思う。

た
か
ぱ
ん
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イ
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