本

『わたしたちのアジア・太平洋戦争』

ホンとの本

『わたしたちのアジア・太平洋戦争』
1 広がる日の丸の下で生きる
古田足日・米田佐代子・西山利佳編
童心社
\3465
2004.3

 戦争の記録を残さなければならない。直接知る人は、時代と共に少なくなる。「戦争を知らない子どもたち」が日本の全人口になることを想像することは恐ろしい。この本は、体験談を収集しようとしている。憎しみや悲しみの感情を書き連ねることは必要なかった。淡々と事実を並べていくだけで、とてつもない憤りや悲哀が湧き出てくるのを、わずかな想像力でもあれば感じることができるからだ。
 沖縄戦の体験者は語る。「戦争になれば軍隊は国民をまもらない。まもれないのです」(78頁)
 盧溝橋事件が報道されたとき、日本人は、「ただ演習するところへうってくるとはけしからん。やっつけろ」という思いに高揚した。しかし、敗戦後、古田さんは知る。「ひとの国で日本の軍隊は演習をしていたんだ。それを見ていた中国人は心のなかで腹を立てていたにちがいない。ぼくは小学校四年にもまっていて、そのことに気がつかなかったのだ」(59-60頁)
 小学生にでも読めるように、ふりがなが振ってある。だが内容は小学生には厳しい。赤裸々に、日本軍が行ったことが記してある。中国にいた人、朝鮮の人が、何をされたかが記録されている。文章でさえ正視できないくらいなのだから、その現実はいかばかりかと思う。
 言葉の解説も豊富であり、実に分かり易い。だが、その内実を本当の意味で分かることは最高に難しい。
 南京虐殺はなかったとか、慰安婦などいなかったとか、愛国を掲げて叫ぶグループがある。そんなことができるわけがない、などと妙な理由をつけて。だが私は、今の社会を見ていて確信する。今の社会でも、手に銃や剣をもち、それを目の前のアジア人に対して使うことが許されるとしたら、同じことをする精神的土壌があるのは間違いない、と。いじめの姿である。個人の責任意識がなく、集団心理で動く姿である。
 この本の証言を信じたくないのなら、それでもいい。だが、これを経験した人の真実は消えない。自分の心に閉じこもっているのは、日本愛国を大々的に唱えている者たちのほうではないのか。
 アジアを解放するという美名の下に、実は資源目的で占領していく様子がよく伝わってくる。また、朝鮮の文化を否定して、囚人がすることと思われていたようなことを、日本人は強制した。逆らう者は容赦なく殺された。
 たしかに北朝鮮の拉致問題は、日本の被害者に限りない同情を寄せたい。怒りもある。だが、日本軍が朝鮮にしていたことは、これとは比較にならない。北朝鮮の人が日本に対していまだ怒り続けていることに対して、私は何の反論もできないのである。古田さんのように、これくらいのことも気がつかなかったという気持ちである。
 このシリーズはまだ続く。楽しみにしている。




Takapan
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