本

『ある愛の詩』

ホンとの本

『ある愛の詩』
新堂冬樹
角川書店
\1,600
2004.1

 
 小笠原諸島で、流香は拓海と出会う。拓海はイルカと恋人以上のようなつながりをもった青年。流香は、音楽大学で歌唱を学ぶ。幼くして母が自分を捨ててミラノへと旅立ったトラウマを引きずりながらも、自分もまたそのミラノへ行きたいと願い、そのためにがむしゃらに努力する。天性の歌声は、拓海の前に、イルカと話すに等しいような感動を与えた。天真爛漫な拓海は、会ったその日に、流香に、君が好きだと告げる。何の計算も隠し事もない、純朴な言葉――。
 だが流香は、愛せない。人を愛するということが、素直にできないと信じている。拓海もまた、愛し方を知らない。以後、さまざまなすれ違いが読者を苛々させ、あまりに純粋な拓海の献身に、思わず涙する。
 純愛小説がブームだという。韓国ドラマの騒ぎも、この純愛路線であることは間違いない。それは、希望のない世の中に背を向けた態度だと評されることもある。だが、たいていのファンは知っている。自分の中に、そのような純なものがなくなっていることを。いや、完全に消失しているわけではない。それを求めているのは間違いない。どんなに宗教が奇妙なものとして世間から見られようと、そこに何かあると求める心があるから、また幾ばくかの人が門を叩くことになる。
 小笠原のイルカと離れ、拓海は流香のコンクールを聴くために東京にくる。彼は、流香を束縛しようとか自分がどうしようとかいう意図がない。彼女がどうあったとしても、ただ自分は彼女が好きだという気持ちはそのままあると認めるに過ぎない。しかし、コンクールを通過してミラノへ行ったとき、向こうでの生活費などの問題が流香にはあった。ホテル経営をする彼女の父親は、その妻との過去があるゆえに、絶対にミラノへは行かせないと考えている。費用を援助しないというのだ。そのことを知って、拓海は仕事を始める。そのためにいくつもの誤解を生み、あげくには流香のピアノ伴奏を務める間宮という男のプロポーズを、受けたような形になる……。
 じれったいメロドラマではある。だが、どうして引き込まれていくのかについては、理解しがたく残っている。人の心は、純粋なものに憧れているみたいだ。
 タイアップした、CDも発売されている。この小説に相応しいメロディが、付録になっている。面白い企画だ。それは3曲限定だが、本式のアルバムは、別に発売されているというから、ますます面白い。
 イルカが引っ張っているストーリー展開も、味がある。ちょっとクセになりそうな、そんな小説かも。




Takapan
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