『あらすじで読む 日本の名著』
小川義男編
樂書館
\1,000
2003.7
文学作品が読まれなくなって、歯がゆい思いをしている高校の先生たちが、一冊の本を出した。作品全体を読むのがしんどいなら、あらすじだけでも紹介してやろう。あらすじとはいっても、原稿用紙5枚くらいはある。本屋の宣伝とは違い、思わせぶりな終わり方もしない。きっちりと、本のあらすじを示す。あらすじだけでも把握すれば、原作を読んでみたくなるのではないか、との淡い期待をこめて。
収録された作品は、『浮雲』『金色夜叉』『五重塔』『たけくらべ』『高野聖』『不如帰』『高瀬舟』『彼岸過迄』『蒲団』『牛肉と馬鈴薯』『野菊の墓』『土』『友情』『暗夜行路』『恩讐の彼方に』『奉教人の死』『女の一生』『蟹工船』『機械』『雪国』『春琴抄』『黒い雨』『風立ちぬ』『李陵』『斜陽』『放浪記』『金閣寺』『野火』の28編。堂々とした、文学史の目録のようである。私たちの世代だと、作者とタイトルくらいは楽に結びつくものばかりだが、それさえも最近は怪しいらしい。なにせ、国語の教科書からこういうのが消えている。教師も勧めないし、生徒も読む気がない。いや、教師でさえ読んだこともなければ、あらすじさえも知らないのではないか。
他人事ではない。私もまた、中身は知らない本がいくつもあったのだ。それで、この本を、めいっぱい楽しんで読ませてもらったのである。電車の中で読むのだが、どんどん引き込まれていって、実際に文学作品に出会って世界が違って見えたような気にさえなるほどである。その点、本をまとめた先生の願いは、私においては成就したと言えるかもしれない。
ありそうでなかった本かもしれない。本の紹介はあるが、えてして、本に対する筆者の批評が中心となっていく。純粋に、本のあらすじだけを紹介することに徹したところが、この本を出した高校の先生方の慧眼である。
これは「名作鳥瞰図」であるという。こうした地味な編集は、自分の考えを述べる宿命にさらされている評論家や作家にはできない。学校の先生だからこそ、できたのかもしれない。
どうだろうか。これらのリスト。一度は読みたいと思いつつ、読む機会に恵まれず、また読む気にもならないでいるのではあるまいか。もったいない。人生は、そう長くない。少しでも、読もうかと思ったときに、読むがいい。ただし、このような本で、ストーリーの面白さを知った上で読むのでも、よいではないか。幾分、これから先どうなるのだろうというワクワク感が消えてしまうかもしれないにせよ。