本

『ひとつのいのち、ささえることば』

ホンとの本

『ひとつのいのち、ささえることば』
新垣勉
マガジンハウス
\1299
2004.6

 泣いた。通勤電車の中で読みながら、涙した。
 新垣勉先生が執筆したというよりも、その語録と言ってもよいだろう。一ページにはそう多くの言葉が載っているわけではない。数行の詩のように記され、中央に寄せられているため、両側が白く空いている。
 だからこそ、読者が、大切な言葉というものを、ページ単位でしっかり意識することができる。
 新垣勉さんの紹介をここでする暇はない。申し訳ないのだが、ご存知でない方は、ちょっと検索して戴きたい。公式サイトもある。
 失礼な言い方かもしれないが、私は、森山良子の歌う「さとうきび畑」は、新垣勉先生の「さとうきび畑」の足元にも及ばないと思う。そのことは、歌を聞けば分かる。心の奥を揺さぶるのは、新垣先生の歌だ。このことは、作者の寺島尚彦さんもまた当然よくご存知であった。この本の105頁には、こう書いてある。
 ――寺島先生は生前、私が歌う「さとうきび畑」がお好きで、初めてお聞きになられたときに、私の居所を自ら探されたということでした。「あなたのために歌を書きたい」との、ありがたいお申し出もいただいていたのです。それなのに、先生は天国に行かれてしまいました。
 新垣先生は、西南学院大学で牧師の学びをなさったこともあり、福岡にもよくいらっしゃる。私も一度お会いしている。教会でのコンサートで沢山の歌を歌って戴いたのだ。間もなく、讀賣テレビで特集番組が放映され、広く知られるようになった。
 無闇に人のことを批判はしない。世に受け容れられているよいことについては、そのまま肯定する。この本でも、SMAPの「世界に一つだけの花」を大いに喜び、オンリーワンを大切にしてほしいと素直に語る。ただし、そこに「バラはバラの薫りでいいし、スミレはスミレの薫りでいい」という表現があり、「そのままの姿で」という子どもが歌える賛美歌の歌詞を引用しているように、新垣先生は、キリストの命に生かされて生きることを、そのカリスマである歌を通して、伝えようとしている。
 キリスト教にも理解のある美智子皇后は、新垣先生のコンサートで、涙が止まらなかったと言い、しばらく話をしたと記されている。
 その言葉は、命を尊び、だからこそ、平和を訴える。歌という形で。
 そんななまっちょろいことを言うな、とふんぞりかえる軍事主義者たちの高笑いに、いつも負けそうでいる理想主義が、この本を読んでいるうちに、いや勝てるぞ……もう勝っているぞ、という気になってきたのが、なんだか不思議であった。




Takapan
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