本

『マンガ APD/LiD って何!?』

ホンとの本

『マンガ APD/LiD って何!?』
きょこ
小渕千絵・佐々木香緒里監修
合同出版
\1500+
2022.8.

 殆どがマンガで、いくらか文章の説明もある。事柄の理解はマンガで十分分かるが、もう少しこみ入った情報を提供したいときや、大切な注意やまとめを示したいときには、文章を用いているようだ。
 APDというのは、聴覚情報処理障害の略だという。「聞こえているのに聞き取れない」と表紙に文字が浮かんでいるが、これが情況をよく表していると言えるだろう。ほかの音がかぶってきて聞きたいことが理解できなかったり、情報が多重になると一つひとつを認識することが急にできなくなったり、などという事情が書かれているが、恐らくひとにより、困っている事態はずいぶんと違うものであることだろうと思われる。
 著者は漫画家であるが、聞き取れない自分のことで悩んだときに、調べるとこれではないか、と思い当たったのがこれであった。監修者は国際医療福祉大学のスタッフで、著者はここに相談に行き、検査をして、診断をしてもらっている。
 親しみやすいマンガという表現のできる人が、当事者となって経験したことだから、非常に生々しいレポートとして伝わってくる。日常生活の細かな場面でも、何がどのように困るのか、どんな気持ちになるのか、その人でなければ分からないことが描かれる。その一つひとつの事例は、本書をお読み戴くのが筋なので、ここでやたらと内容を辿ることはしない。
 著者は、こうしたことを作品として表して、読者の反応を集めている。そのため、著者自身の事例ではない、広い体験がここにつながってきて、厚みのある本となった。しかも、大学の先生が協力しているために、内容的にも信頼のおける、さらに広く深いものがここにこめられていて、優れた内容の本となっているのではないかと思った。
 タイトルは APD/LiD という並べられ方をしているが、この LiD の方は、「聞き取り困難」と訳すべき語の略語となっている。国際的には、こちらの言い方が主流であるという。「聴覚情報処理障害」とだけに限らず、様々な「聞き取り」の困難さを抱えるケースを網羅すべく、広い把握の仕方がなされているわけである。
 検査の内容を明かしてくれると、どんな検査を受けるのか不安だという気持ちを楽にしてくれることだろう。困っている人は、生活の中でどのようにすれば、少しでも事態が改善していくのだろう。そのための様々な知恵や体験談が、あちこちにあって、確かにこれは役立つことだろうという気がした。
 このような人がいることは、私も聞いたことはあった。ありうることだろうという理解もしていたつもりだった。だが、授業で私の話すことをちっとも聞いていないという子が時折いるのだが、この障害との関連は頭になかった。いまにして、それを反省している。聞いていないのでもないし、遊んでいるなどということではない。聞いていても理解にたどり着いていないのである。もちろん、その子がこれだというふうに決めつけているわけではない。だが少なくとも、その可能性を頭に置いて、対処すべきではなかっただろうか、と悔やむわけである。
 そのような、子どもの場合にどのように対応するとよいのか、ということも、その大学教員のアドバイスにより、体験者の声も載せられている。
 確かにこのような監修者の力は大きい。ただ面白く書かれただけではない。同様に困っている人が、歩き始めるための道案内をしていることになる。
 それから、体験を含めての指摘ではあったが、「送受信機」なるものについては、考えさせられた。難聴の子が、塾の授業で用いてよいかという相談があって、在籍中はずっと使っていた。その時には、それほど高価なものとは知らなかった。20万円くらいかけてやっと使えるようになるのだという。補助金が出ないというのだ。これはもっと声を大にして、福祉政策の力を加えてもらえるようになるべきだと強く思わされた。
 確かにこうした人は大変だな。このような障害を持ち合わせていない人は、そのように感じるかもしれない。だが、私たちも、いつ当事者になるか分からないのだ。それは、私たちが聞き取り困難になる、という意味だけではない。私たちの周りに、そのような人が現れて、共に仕事をしたり、交際したりすることがあるかもしれないからだ。
 否、すでに傍にいるかもしれない。気づいていないだけかもしれない。何度も聞き直す人、指示したことが分かっていない人、もしかすると、当人も気づかぬままに、この障害を抱えているかもしれない。そのときに、どのように配慮すればよいのか、本書にはそれも書いてある。手っ取り早く言えば、上司や仲間に、この本を読んでもらえるとよいのだ。その価値は十分にあると思う。
 外から見えない障害は、気づいてもらいづらい。聴覚障害者もそうなのである。ある程度は分かりづらいことは仕方がないが、いざ分かったら、せめてできるだけの配慮はすべきである。本書が、広く知られるようになればよいと願う。そして、補助金の実現のためのきっかけになればいいと、強く願う。




Takapan
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