本

『あなたの声が聴きたくて』

ホンとの本

『あなたの声が聴きたくて』
社団法人・子ども情報研究センター編
明石書店
\1,000
2003.5

 1977年、乳幼児発達研究所として発足した民間の非営利組織は、その後1995年、社団法人・子ども情報研究センターと改称した。子どもの権利条約が94年に批准されたゆえである。子どもの人権に関する活動をしており、この本もその活動の一つとして生まれた。電話相談を開局し、後に「ファミリー子育て何でもダイヤル」として、さまざまな電話による相談を受けてきた。電話応対のプロとは言えない面々も、いろいろな失敗を重ね、電話でどのように対処していけばよいのか、学んできた。
 母親たちを世間(そしてこの私)が追いつめていることがある。このグループはしばしばその実例を示してくれます。この本は、見開き2ページで、ある相談例から始まって、それに対するスタッフの回答を説明していくという構成になっています。そのときにも、私はどこかほっとする優しさのようなものを感じてならなかった。規則や一般的意見を押しつけるのではなく、時に大胆にルールを破るようにしながら、子どもたちを包む母親を守っていくように配慮されているように思えてならなかったのだ。苦しい母親からの電話に、「そうだね」と共感するこしかできないことも度々あるという。でも、それは一つ大切な営みである。相談されて、すぐに相手の欠点を突いた指導をすることが通常多い。相談内容に対して、模範解答を提示することがつねによいとは限らない。自分がどこかよそにいながら、高みの見物のように人の苦しみを眺めるようであってはならないのだ。子どもに苛々する母親は、夫に理解されたいという健気な希望を掲げるほどに、追いつめられているのである。何が正しいとか誤りであるとかいう情報を根拠に対応するとなると、なんとそれは律法的であることだろう。聖書に照らし合わせて、厳しく適用することばかり考えていると、実際人を裁くことばかりに熱中していかないとも限らない。
 少子化問題とか子育て支援とかいって、聞こえのよい言葉はそこらを飛び交っている。だが、悩んでいる母親たち、どうしてよいか戸惑う母親たちにとっては、夫が自分を受け入れてくれる、という一見小さな事実をこそ、望んでいることが多いのだ。もっと、男は子育てに強く関与してしている自分を意識すべきである。ミルクを与えたり、おむつを替えたりするのが関与ではない。もっと精神的に、小さな一言でさえも、大切にして子どもとその母親に対することが重要であることを、この本は強く訴えているように思えてならない。そのことはさりげなく綴るに留まっているが。
 この本のよいところは、電話で実際に応対するスタッフが述べているからこそ分かるのだが、実に温かく包み込むように、電話で応対しているところである。律法的に責めるようなことをせず、とにかく事態を打開していく知恵は何かという方にのみ視線を向けている点である。
 その視点や視野には、イエスの眼差しに近いものがあると私は考えたが、あながち外れているものではないと思う。神殿で人を救ったイエス。律法主義を敵対視したイエスの心情が、朧気ながらこの本からも感じ取れてきてしまう。子どもを大切にしようという願いや近いものがあると立てる人は、試しに一度読んで戴きたい。人を救うというのはどういうことか、を知るヒントにもなるだろう。




Takapan
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