本

『あまのじゃく人間へ』

ホンとの本

『あまのじゃく人間へ』
遠藤周作
青春出版社
\1470
2004.10

 おや?と思わせた。遠藤周作の新刊とは。すでに世を去ってから8年。見ると、新装版だという。こうしてハードカバーとして再び出版されるほど、名著だったのか……どうかは分からない。
 タイトルは、まるで私のためにつけられたようでもあるし、サブタイトルが「いつも考え込み自分を見せないあなた」とさりげなく添えられているのも、小憎らしい。
 筆者の気の向くままに、エッセイを書き連ねたもののように見えたが、さすがその道のプロ、読者のこそばゆいところを見事に突いてくる。よくよく見れば、さして深みのない話が多い。例示が古くさかったとすれば、それは、元々1987年に刊行された本だからだろう。それでも、まるで夜の盛り場で話のうまい奴に出会って四方山話を聞かせてもらったかのような感覚で読み終える。
 遠藤周作は、クリスチャンであった。カトリックの信仰を、もち続けたと言ってもよいだろう。だがその中で、キリスト教の父なる宗教を、母性に置き換えたらどうかと問い続け、文学者らしい想像力も用いて、独自のイエス観を世に提示したりした。
 だが、信仰的な何かをこの本に求めることはできない。たぶんそういう考えから解放された自由なエッセイとして書くことができたことだろう。
 妙に、あるものにこだわって、すっかりそっちの方に行ってしまうという事態もあるようだが、ここはひとつ、思い切り著者に振り回されることを楽しむ気持ちで、読者も臨んでみるとよいかもしれない。著者もまた、羽目を外して楽しむことの好きだった人である。そういう読み方をされて、嫌な顔をする筈がない。
 待てよ。少しばかり不安になってきた。私は、この本に書いてあることは普通だという印象で今綴ってきたものだが、世間の人が見ると、「あまのじゃく」なことばかりこの本には書いてあったのだろうか。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります