本

『みんな、絵本から』

ホンとの本

『みんな、絵本から』
柳田邦男著・石井麻木写真
講談社
\1260
2009.1

 児童書と分類されているものを、子どもだけのものにしておくのはもったいない。ずっと私はそう叫んでいる。大人が読むと、すっかり理解できるのだし、心にも頭にもよく残るのだ。子ども向けとされている本は、大人にとって素晴らしい本であることが多いのだ。また、子どもに分かるように説明をすることは実に難しいわけだから、それだけ平易に記されているとなれば、著者は実によく理解して書いている、ということにもなるだろう。
 絵本も、子どもだけにしておくのは、絶対にもったいない。
 時折、大人向けの絵本が、心を癒す、などとして話題に上る。だが、話題だから云々などというのは関係ない。大人は、もっと絵本を見るべきだ。書店の方には悪いが、立ち読みでもすぐに読める。もちろん、実は絵本を読むというのは、ストーリーを眺めて理解するということではない、ものすごい重みのある、つまり読むのに体力を要する行為なのである。子どもは、全身全霊で、絵本に向かう。絵の隅々まで見ている。言葉の一粒も聞き漏らすまいと集中している。そして、その言葉や絵という、見える世界の向こう側の世界に、トランスしてしまう。一冊終わると、はあはあ息が切れそうなくらい、疲れているのではないかと思われる。大人には、そういう読み方は、たぶんできない。
 さて、以前ならばテレビが、今ならばケータイというものが、子どもたちを絵本から遠ざけている。いや、と著者は言う。そうした機器、メディアが、子どもたちを駄目にしているのだ、とはっきり指摘する。
 並んでいる言葉は、ありふれた評論であるように聞こえるかもしれない。しかし、ありふれているからこそ、そこに、子どもたちに対する切実な愛情と渇きとが感じられる。大人になりきって、人生のステージを遠からぬ将来に去らなければならないと気づいたとき、子どもたちの未来に対する責任を痛感するかのように、今言わなければ駄目だ、との思いが前面に出て行くのかもしれない。私なら、そうである。
 著名人から、名もない子どもまで、幾多の人の言葉が、右の頁の写真とぴったりマッチしながら、左の頁に時を刻んでゆく。構成も、ニクいほどはまっている。
 大人がこの本に触れて、いくらかでも心が洗われるような思いがしたなら、その人にはまだいのちがあると思う。さらに、その思いを一時の感情として流してしまうことなく、保ち続け、そうして自分の行動に活かしていくことができたとしたら、その人のいのちは永遠に続くことだろう。
 おっと。まるで、福音のようなものだ。




Takapan
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