本

『芥川龍之介の歴史認識』

ホンとの本

『芥川龍之介の歴史認識』
関口安義
新日本出版社
\1890
2004.10

 耽美主義とも見なされ、芸術至上主義で通したかのように評される、芥川龍之介。しかし、その社会的な関心はただ事ではなかったということ、さらにその社会的歴史的な認識が、芥川の作品の強いバックボーンとなっていることを、証拠立てようと論じた本である。
 大逆事件に際して、政府を強く弾劾した徳冨蘆花の「謀叛論」の演説を聞いた――会場で聞いたという証拠はないものの、内容は知ったという――芥川が、時に作品の中で、戦争をもたらす日本政府のやり方を批判していくというふうにも、現実社会と強く関わっていた、というのである。
 どだい、現実社会と関わらないで作品を組み立てたというほうが、無理なのであろうが、そでも、芥川作品は、額に入れて掲げた芸術作品のように鑑賞されることが多いのは否めない。『羅生門』は、今の高校国語のすべての教科書で採用されている。このような作品は、他の作家を含めて考えても、例がない。良き教材と化しているのだが、その教育の現場でも、一般的な芥川解釈が押し通されているのであろうか。いや、もしかすると、現場では、文壇や批評界の常識に囚われない、高校生の真っ直ぐな眼差しによって、すでにこの本にあるような提案がなされているのかもしれない。
 キリシタンものについては、この本では殊更に論評されていないが、それもまた、政治の姿に一石を投じるものであったはずである。
 また、『金将軍』という小説は、私は読んだことがなく、それゆえにまた、この書で詳しく紹介されているのを見て、興味をもった。韓国などでは、芥川のこの書を研究する学生も少なくないとのことである。だが、日本では殆ど論じられることもない。それは、挑戦の軍記小説に基づく構成をしているからである。
 芥川は、中国を視察旅行した経験をもつ。このときに、隣国の現実を痛いほど見て知って帰ってきたのだという。だから……。
 こうした、熱意のこもった論調で、芥川龍之介の人物像を、安易な純粋芸術的感覚から切り離すために、この本は続けられていく。
 元来『赤旗』に連載されてきた原稿をベースにまとめられた本である。その辺りの事情も、無関係ではないにしても、芥川と社会との関わりを強く訴えることができている。そして、芥川がきわめて常識的な社会人であったのだという、考えてみれば当たり前のことを、私はここから改めて学ぶことができたように、思っている。




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