本

『あいすること あいされること』

ホンとの本

『あいすること あいされること』
宮西達也作絵
ポプラ社
\1260
2013.9.

 有名な絵本シリーズ。いや、本来シリーズではなかったし、すべて完結した一話ずつであるから、連続性あるシリーズと称してよいかどうかは分からない。『おまえうまそうだな』は衝撃的で、一見乱雑な、強面の恐竜が、実は心優しいという姿で子ども心を掴んだ。いや、大人の心をこそ掴んだのかもしれない。それから10年、愛をテーマにこの恐竜シリーズを描き続けてきた作者が、なんとも深いタイトルの作品を発表した。
 ウルトラマン、ウルトラセブンのパパものもいいが、やはりこの恐竜が主人公のものは強い魅力がある。却って人間ではないところがよいのかもしれない。また、これが普通の動物であると、食うか食われるかというシーンや葛藤を描くのが難しいかもしれないが、古代という舞台で時空的に遠い演出をすることで、大胆な場面設定を可能にしているという理解も可能だろうか。
 意地悪なトロオドン。仲間にも意地悪を繰り返すが、はたして他から愛されなかったことはその結果なのか、原因なのか、そのあたりはぼかしてある。ある日大きな卵を見つけ、食べようとするが歯がたたない。そこでこのトロオドン、持ち帰ってこの卵を孵化させることを考える。出てきたら食ってしまおうというわけである。
 ところが卵をどこかに置き去りにすると、他の誰かから取られるかもしれないと危惧したため、自分よりも大きなこの卵を、トロオドンは背負って生活することにする。重くて不自由を覚えるが、そのうち、この卵が自分を助けてくれていることに気づく。間もなく生まれんとする卵の中の恐竜と、ついにコミュニケーションまで果たす。いつしか、それを食べてしまおうというよりも、卵から無事孵ることを楽しみにするようになる。
 それからの感動的なシーンは、ぜひ絵本をご覧戴きたい。
 果たして、この絵本の題が最もふさわしいかどうかは分からない。愛されたから愛するのか、そのあたりも曖昧である。だが、そういうところに理屈は要らない。原因結果の関係を突き詰める必要もない。作者は、この物語を描くときに、このタイトルを心に保ちつつ描いているのだ。自分の欲でさえ、変化するということ、特に強いて向きを変えるのでなく、自然と自分が変わっていくということがあるのだということを、子どもたちに示す。それは、子ども自身の成長の過程であるようにも見える。
 恐竜が主役の作者の絵本たちは、タイトルか魅力である。『きみはほんとうにステキだね』『あなたをずっとずっとあいしてる』『あいしてくれてありがとう』『わたししんじてるの』『ずっとずっといっしょだよ』など、言葉が美しい。子どもの心に大切に抱きしめてほしい言葉が、星のように並んでいる。この真っ直ぐなメッセージがうれしい。
 ともすれば、タイトルは捻ったり、あるいはありきたりにしておいて、中身を読めば分かってくれる、といった感覚を、大人は持つことがある。だが、タイトルは大切である。子どもが一番口にする、そして子どもの目につくというのは、絵本のタイトルである。そこに、これだけ、大人が口にしたがらない言葉が光っているというのは、むしろ大人へのメッセージであるのかもしれない、とさえ思う。
 そういうわけで私は、書店に行き、親がこの絵本を探していることを、店員さんに告げているシーンを想像するだけでわくわくする。「『であえてほんとうによかった』ありますか?」




Takapan
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