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『アイヌ民族:歴史と現在』

ホンとの本

『アイヌ民族:歴史と現在』
小・中学生向け副読本編集委員会
財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構
2008.3.

 未来を共に生きるために。この副題とともに、北海道以北の古い地図が表紙を飾っている。今回手に取ったのは、中学生向けの副読本である。公益財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構というものを初めて知ったあたりが、私の至らないところであろう。沖縄についてはかなり詳しく調べることもあったのだが、北の地域については遠いせいもあるのか、無知であった。いや、もちろん何も知らないとは言わないが、私の学生時代には、今の教科書のように、アイヌ関係の歴史や蝦夷のような異民族と考えられた人々のことが必須事項としては含まれていなかった。今なら、アテルイやシャクシャインは絶対に知っておかなければならない名前なのだが、それさえも、曲がりなりにも教育関係の仕事をしていなければ、耳にも入ってこないかもしれなかった。沖縄戦にしてもそうだが、知られないままにされている重大な歴史というものが、いくらでもあるものだ。
 とはいえ、私は、アイヌの旧土人法(北海道旧土人保護法)については知っていた。この差別語も、私の子どものころはまだ使われていたし、子どもたちの間でも口にされていたのだった。トムとジェリーのあるお話にも平気で流されていたのだ。この法律が、約100年の時を経てようやく廃止されたのは、1997年、つい最近のことなのである。
 逆に言えば、ろう者などと共に、この時期に待遇が見直されていたということでもあろうが、それにしても、民族的差別は法的な措置でなくなることもなく、部落問題と共に、根強く残っているのが現状である。日本の総理大臣でも、そのように公的に言い放ったことは、記憶にある方も多いことだろう。
 この副読本は、アイヌ民族の歴史を、分かっている限りすべて網羅しようとしている。中学生に対してのことでもあり、特別深く、また残酷な場面を描くようなことはしないが、本当の歴史の教科書のように、抵抗なく知識として身に付けるに相応しく描かれている。地図や史料、欄外の解説も含めて、かなり詳しい説明が施されており、基本的な知識としては十分すぎるほどのものが載せられている。一読して全部は頭に入らないほどである。
 本文だけで4頁から39頁までが費やされており、カラーでたいへん見やすい。
 図書館で見つけて読ませて戴いたが、これは手元に置いておきたいと思うほどの価値のある小冊子であった。だが、値段がついていない。一般には販売されていないものらしい。そう悲しんでいたら、インターネットでこれを見ることができることが分かった。次のURLである。
    公益財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構
    http://www.frpac.or.jp/history/index.html
 ここには、PDFでこの本がまる一冊閲覧できる。ダウンロードも可能だ。それどころか、私が喜んだことに、小学生版もあった。教師の指導用のものもあった。これはたいそううれしかった。




Takapan
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