本

『愛と祈りで子どもは育つ』

ホンとの本

『愛と祈りで子どもは育つ』
渡辺和子
PHP研究所
\1260
2006.6

 マザー・テレサともよくお仕事をしたという名高いシスターの著書であるが、自身が子どもをもつわけではない中で、これだけの提言をしていくのは、勇気のいることだろうと思う。事実、サッカーをしたことのない者がサッカーの監督をして信用がおけるかどうか、というようなものである。
 だが、祈りの生活を続けてきた人には、不思議な力がある。祈り続けるうちに、子どもを自ら育てたような重みを受けてしまっているのである。
 もちろん、大学の学長まで勤め上げた人であるから、若い人や子どもたちとの対話やふれあいも少なからずあるわけで、それがある種の経験となっているのも事実だが、それにしても、そこにいない人のために、そこに起きていないことのために、頭を使うというのが祈りの一つの姿であるとすれば、それはなんと様々な事柄の理解のためにも役立つものであろう。
 私もまた同様の信仰をもち、そして実際に子どもを育てている。そのため、なかなかその通りには実践できないにしろ、この本の言葉がよく響く。聖書を知らない人が読んだら、また別の感想をもたれるかもしれない。が、思うに、やはり驚きつつも、筆者の意図をよく感じ取っていかれるのではないだろうか。
 愛も祈りも目には見えません。そしてそのいずれも、お金で買えない「大切なもの」なのです――冒頭に記されたこの言葉は、きっと読者の心に染み通っていくことであろう。
 心理学的な裏打ちや、いかにも精神世界的な神秘さなどを、ここに求めるのは間違っている。キリスト教が、いかに理に適ったものであり、さらに、この理の背後に、とてつもない深みがあることが、この本の文面に触れた人は、感じられるのではないか。
 マニュアル的なもの、ハウツー的な解決法を期待するならば、がっかりするであろう。だが、心を正面に向かせて本の言葉に聞き入る姿勢をもつならば、言葉に尽くせない、大きな財産をこの本から得るのではないか、と私は思う。そして、最後に日本をカルカッタに喩えることの意味を、理解できるのではないか、と思う。




Takapan
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