『日本語アカデミックライティング』
滝浦真人・草光俊雄
放送大学教育振興会
\2400+
2017.3.
正直、私が個人として本書を利用する機会はない。学者にはなるつもりもないし、そもそも、なれない。自分の才能の無さは、自分がよく分かっている。だが、曲がりなりにも論文を書いたことはあるわけで、ここに書いてあることについては、基本的に分かっている。
では何故買って読んだのか。息子のためである。詳述はしないが、哲学を学んでいる。しかし私のようにガチガチの哲学ではなく、英語が堪能である中で、偶々哲学的な方面の探求を決めた、ということである。音楽に優れており、いろいろ忙しいのだが、そろそろ卒業論文を視野において活動しなければならなくなった。だが、何を書いてよいのか、皆目見当がついていない様子である。
研究対象を拠出することはできないが、せめて、論文を、書くとはどういうことか、親としてアドバイスすることはできるかもしれない、と考えた。しかし手取り足取り指導するようなことはできないし、したくもない。それをしてもらうために、学費を払っているのだ。そこで、手許で参考にできる良い助手がいないか、と少し探してみたところ、本書に出会ったのである。一応、紹介や評判を基に取り寄せてみたが、なかなか的を射た、手頃なものであったと喜んでいる。そのために、推薦の意味もこめて、ここに挙げることにした。
放送大学のテキストである。ラジオでこれまでもいろいろな講座を聞かせてもらった。全部で15回の放送である。本書も、15の章からできている。
編著者が2人表紙に名を留めているが、分担執筆者が他に3人いる。放送大学でも、こうしたことはよくある。だが一つの講座であるため、個人により分散するような印象を与えない。個性があるとすれば、理科系の論文と、社会学の論文との具体的な検討が、それぞれの持ち味を表している、という程度のものではないかと思う。
放送大学は、直に教授の指導を受ける機会が、比較的少ない大学である。直接会えない中での講義と研究が進む、という意味である。そこで、一度の放送でもスッと入っていくような、噛み砕いた説明があるのが一般的である。本書でも、そのメリットを遺憾なく発揮していると私は感じた。
第一段階は、「何のために書くか?」である。もう本当に基本の基本から、問いかけてくれる。これくらいは分かるだろう、というような突き放し方はしない。ただ、最初がそうだからずっと先もそうだろう、と甘く見ていると、だんだんレベルが上がっていくから、心して始めたいものだ。
次が「わかる文章とは?」となるが、なかなか良い説明がしてある。「うまい文章」である必要は全くなく、「わかる文章」でなければならない、という。当然である。ただ、「起承転結」をするな、という点は、素人に対して的確な指導だと驚いた。そして、その理由も極めて納得がいくような形で宣べている。
この調子で紹介してゆくと、際限がないし、内容をばら撒いてしまうことになるから、遠慮する。この後、テーマを考えたりタイトルを決めたりする営みも懇切丁寧に指導してくれるし、情報の得方、それも意義ある情報というものについて、このネット時代に陥りやすい罠にも気をつけながら、基本的なところから教えてくれる。
引用の意義と、その方法についての具体的な説明は、よくぞここまで丁寧に細かく語ってくれたものだ、とこれまた驚いた。このように本書は、実に基礎的なことを、納得がいくように丁寧に教えてくれるのだ。
パラグラフの考え方や文そのものへの関心などは、高校への推薦入試の作文の指導をしてきた私にとって、非常に参考になるものでもあった。というより、私が中学生に口を酸っぱくして語り続けてきたようなことが、よりはっきりと示されていた、というような印象を持った。
根拠の必要性など、当たり前といえば当たり前過ぎることなのだが、きちんと指導しておく必要がある。それをテキストレベルでしてくれるのが、この放送大学での強みである。実際、放送教材によって学位を取るということのために励む人々がたくさんいるわけだが、これだけ丁寧なテキストと講義があったら、やる気さえあれば十分目的が達成されるだろう、と明るい気持ちになれた。
そもそも考察とはどういうことか、結論をどのように位置づけるか。こうした分かりきったようなことが、案外通常の学生は、分かっていない。そこを押さえてゆくのが、本書を見てよいと思った私の一つの注目点であるような気もする。
さらに、最終回は、これまでのことを全部振り返る。要点を繰り返して、いよいよこれを心がけて用いて実践したまえ、とでもいうような、励ましの講義となった。従って、最終講義を見直せば、全体のことを思い起こすことができるようになっている。なんと親切な構成であろうか。
研究内容が講座では具体的に求められてゆくのが通例であるが、本講座は、それらの具体的な全講座を頭括するかのような、そしてすべての領域において必要な、メタレベルで役立つ講座である。基本的なことはもちろん、かなり高度な実践に至るまで、この240頁の中に、十分なものが、しかも非常に分かりやすく、語られている。質のよいマニュアルであると言えるであろう。
そして最後に、さすがだ、と私が評価する点を付加する。それは「索引」があることだ。これがあるために、本書は大学生たちにとって、確かな味方となってくれることだろうと確信する。その後また新たな版や講義が用意されているだろうと思うので、より新しいテキストをお求めになると、さらにリアルに講義とリンクすることだろう。放送大学のテキスト、なかなか良いものだ。

た
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