本

『図説 聖書考古学 旧約篇』

ホンとの本

『図説 聖書考古学 旧約篇』
杉本智俊
河出書房新社
\1890
2008.3

 大学教授であり牧師であり、世界各地で研究の経験をもち、考古学発掘にも直に携わっている著者である。見聞する知識と世界の資料を、コンパクトながら効果的に集めた図説である。視覚的にまとめあげるプレゼンテーションにおいても、よく工夫がされている。比較的薄手なので、やや高価に感じないわけでもないが、その内容と、資料性、そして理解しやすさなどを考えると、むしろ安い値段ではないかと思えてくる。
 写真も美しい。図面も正確で、当時の家屋の構造や都市の地理関係などが、見て理解できるように並べられている。
 聖書と考古学の関係は、それだけでも大きなドラマになるものであるが、聖書の叙述が歴史的にも確実であるという面も多いし、それが信仰的な側面を描いてはいるが考古学的には支持できないという部分も、数多くある。だが、概ねどの事柄も、何らかの事実を背景にしているという点では、狂いがないように思われる。
 考古学は、どうしても年代的な判断をしていなかければならない。その年代測定がどこまで信頼できるかという問題も含め、年代の推定次第で、文献の解釈を変えなければならないことも起こりうる。とはいえ、考古学の苦労とともに、人類の忍耐と知恵とを集めたこうした歴史の再構築においては、人間自らのアイデンティティの構成にも関わるものがあるというから、蔑ろにはできない。とくに、この宗教に絡むものとしては、なおさらである。
 それにしても、ユダヤ・キリスト・イスラムの三宗教を支える旧約聖書は、世界が丁寧に発掘し、遺跡を探してきた研究対象である。どんな思想をもって歴史を刻んでいたのかを知ると、現代の私たちも歴史の一部にいる者として、同じ過ちをしたくないものだ、と思うことがある。歴史は過去を学ぶことではない。現在もまた過去になるものと捉え、その時代の現在と呼ばれる時が不幸な世の中でないように、と願わざるをえない。
 聖書の記事の紹介と、それの考古学的な証拠や関連文化が示されるなど、クリスチャンにはもちろん興味深いことが多い。異教の神々と創造主との意外なつながりなど、興味も尽きない。考古学の遺品は、出土したそれだけで全体を断定することはできないにしろ、文献を現代人が解釈するのとはまた別の確たる証拠を示すような時もある。解説の完結で的確であることに加え、写真の美しさには、ただ眺めているだけでも、聖書からの声が聞こえてくるような感覚がするものだ。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります