本

『大人のアスペルガー症候群』

ホンとの本

『大人のアスペルガー症候群』
佐々木正美・梅永雄二監修
講談社
\1365
2008.8

 巷で時々聞かれる病気。アスペルガー症候群。妙に騒がれると、妙な誤解も生じることがある。誤解は偏見を招く。そうではなく、むしろ理解して助けていく方向で考えてみたいのに。本人はもちろん、医療者も、そのように思う。
 ここに、一読してよく理解できる本が著された。これは類書があり、見開き一項目という最近流行のスタイルで、しかもイラストをふんだんに用いて、見たままで理解しやすいように配慮されている。早わかり云々という本も多いが、このように、人を助けるために理解を促す本が、分かりやすくできているのは、うれしいものだと思う。
 人とうまく交われない。コミュニケーションがとれない。ときに引きこもってしまう。自分はちゃんとやっているつもりなのに、人から疎んじられていく。自分に嘘はついていないつもりなのに、厄介者扱いを受ける。
 ともすれば、心の病気だと捉えられがちな状況であるが、それはたんなる心、つまり思いを変えれば改善されるというものではないのだ、というところから、この本は始まる。つまり、脳の障害なのである、と。いや、障害という呼び方も相応しくないかもしれない。脳機能のかたよりが、そのようにその人を形作っていく、というのである。
 だからといって、簡単に治療というわけにはゆかない難しさもある。それを、周囲の人々に理解してもらうことがまず必要だろう。あるいはまた、本人も、一定の自覚を必要とし、それをよいように活かす方法を模索していかなければならないだろう。この本は、そうした双方からの立場で、よい方向にもっていくための手法を様々に紹介してくれる。
 残念ながら、アスペルガー症候群というだけでは、福祉手帳などは発行してもらえないのが、日本の現状である。これがさらに障害を伴うようになっていかないと、社会的な支援は得られない。だからまた、本人のやる気が足りないとか、協調性がないとか、一方的に追いつめられ、非難ばかり受けていくようなことが起こる。
 名前のつく症候群だけではなく、私たちは、そこにいる人を理解しようとすることが、いかに大切であるか、考えさせられる。
 それにまた、本を読んでいると、自分がこの症候群ではないか、と多くの人が思うのではないだろうか。良心をもち、信念を貫こうとするならば、誰しも、このような優しい心の持ち主が浴びるような非難を、受けるかもしれないと思うからである。
 クリスチャンには、鬱的な人がしばしばいると言われているが、もしかすると、この本の内容に該当する場合も少なくないのではないか、という気がしてきた。




Takapan
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