本

『つい話したくなる 世界のなぞなぞ』

ホンとの本

『つい話したくなる 世界のなぞなぞ』
のり・たまみ
文春新書989
\750+
2014.9.

 昨今、新書も値上がりというか、一定の価格の底上げが起こり、文庫の延長とは言えなくなってきたが、その中でこの価格はお買い得である。いや、値段だけのことではない。中身の面白さの故である。
 雑学とでも言えばよいのか、この著者御夫妻は、世界の面白い話をあちこちから集め、紹介してくれることが実に楽しそうである。ほかにも諺を集めた本もあるそうだが、今回は「なぞなぞ」である。
 古来のなぞなぞについては、調べればもっと歴史もあれば変化から読みとれることもある。聖書にもなぞなぞがあり、怪力サムソンがペリシテ人に謎をかけるシーンは物語の展開の重要な鍵となっている。
 しかし、この本はなぞなぞの歴史や文化史的な意味を探ろうとするものではない。とにかく集めた。世界で面白いなぞなぞをピックアップした。それを考えさせて解かせる意図はないようだ。というのは、問題のなぞなぞの直下に、答えがゴシック体で堂々と記してあるからだ。そもそも裏に答えがあっても、透けて見えて興ざめということが多々あるものだが、この本はそれさえも超えている。なぞと答えが一緒に書いてあるのだ。おかげで、私は頁の下を素早く隠して考えるというような読み方を強いられた。
 それでも、謎を考えるのがこの本の目的ではないということの表明でもあるから、このスタイルを批判することはできない。「世界」を知ってもらうことに一つの意図があるからだ。タイトルにある「世界の」は伊達ではない。章立ては、世界の区域毎になされ、国名と共になぞなぞが紹介される。
 本書に、なぞなぞは80掲載されている。一問あたり3頁平均である。なぞと答えは数行で済む。ではあとは何が書いてあるか。これが、なかなか読ませるエッセイとなっている。なぞなぞの答えに関するものであることは間違いないのだが、読み始めたときにはいったい何の関係があるのか分かりにくいこともある。その国の歴史や地理の紹介、あるいは文化や風習の話が始まり、それが結局なぞなぞの解説になっていく、ということも多々あるのだ。そういう地理や歴史、科学的知識、伝説の流布したものと真実との違い、映画やアニメも出てくれば、言語学的分析など、実に多岐にわたる話題が展開される。これが楽しいのだ。そう、まさに雑学。この「なぞなぞ」をネタにして、世界のよもやま話を語りたいだけであるかのようにさえ見えるから面白い。
 選び方にもよるのだろうが、日本のなぞなぞは実にしょうもない。そして、懐かしい。世界でも、そういうノリでなぞなぞが潤滑油的なコミュニケーションの道具として機能しているのだろうか。
 敢えて、本書に紹介されたなぞなぞはここでは明かさない。実際にに手にとって戴いたほうが圧倒的に楽しいと思われるからだ。中には算数的思考のクイズもあり、これはダジャレや引っかけではなく、まともな計算や発想の問題だったりするものがある。真面目な歴史的話題に触れることもしばしばある。くだらない遊びではなく、確かにあれやこれやの知識を提供してくれる。そして、私が見立てる限り、なかなかの正確さだと思う。ギリシアの古典から数理学的背景は、世間によくあるような都市伝説あるいはおもしろ話の域を超えて、かなり原典に照らし合わせて、元来の文献ではこうであった、というようなあたりにも触れられている。つまりは、そういう「そもそも」を探らないと気が済まないタイプなのだろう。私はそれでよいと思う。テレビでお気軽なバラエティ番組のネタとして使われる程度のものではなくて、ちゃんと調べた上でのなぞなぞである。ということは、これはもはや笑い話というレベルではなく、立派な教養書となりうる要素を有している。
 だからお子さんにも、と言いたいところだが、少しネックがある。一部、下ネタも混じっているからだ。品位を下げるような書き方はしていないが、内容的にオトナの読むべき記事となっているだけに、残念ながら小学生あたりにはお勧めできない。お子様の目には触れないように家の中に置かれていたほうが無難であるだろう。その場合も、きちんとした性知識が説明されるなど、書物としての品位は保たれているし、中には「思わせぶり」な出題で、実は「なあんだ」という笑いも含まれている。
 そういうわけで、なかなか完成度の高い娯楽教養書ともなっている。読者はここから、関心のあることについて、さらに調べて、深みに入っていくようなことにもなりうるし、そうなると、さらに自分の教養度を増すことにもなるだろう。もちろん、ただ楽しんでそれで終わり、で十分構わないのであるが。




Takapan
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