本

『親子でまなぶ 経済ってなに?』

ホンとの本

『親子でまなぶ 経済ってなに?』
ニコラウス・ピーパー
畔上司訳
主婦の友社
\1575
2004.7

 どうにも私は経済オンチ(?)である。高校の政治経済はそれなりに解いていた。が、世の中の経済のことが、よく分からない。自分の中に、商売という素質がないのだと言えばそれまでだが、いくら聞きかじっても、世の中の経済というものが、すとんと腹に落ちない。
 サルでも分かるとか、誰でも分かるとかいうタイプの経済書も読んでみた。いや、理屈は分かるのだ。でも、その理屈と、新聞記事とが、どうにもしっくり合わないのである。
 経済理論そのものは、理解できるのだが、世の中がその理論だけで流れているのではないから、ピンとこないのであろう。もし世の中が理論だけで流れるのであれば、共産主義が崩壊することはなかったかもしれない。人々には心というものがあり、その心というものが、必ずしも合理的には動かない。そして、世界には様々な立場の人がいて、見方も変わるし態度も変わるから、経済学者の思惑通りに行動するかどうかは、分からない面があるのである。
 それにしても、この本は見事だ。そんな私の疑問に、次々と答えを出してくれた。この本は、理論で武装した書物ではない。人の心理を巧みに描き、人類の歴史を簡潔に、小学生でも分かるように解きほぐしてくれた。そして、この本を読んだとき、世の中で起こっていることの訳や仕組み、それぞれの国の立場や狙いといったものが、あっさり読み解けたような気がしてくるのが、何よりもの収穫であった。
 子どもにも分かるように記すということは、実に難しいものである。いかにも難しそうに語るのならば、多くの人にできる。だが、子どもに理解可能なように書くのは、大変な難問である。この本は、経済とは何かという根本的な問いにもあっさり答えるわ、歴史の最初の頃の想像物語から始めて人の考えそうなことを的確に語り続けるわ、本当に驚きである。
 できれば、中学生程度の歴史の知識は欲しい。それでいると、後半の近代史が実によく分かる。
 殆どの漢字にふりがなが振ってあり、読みやすい。いや、大人こそこれを読んで、経済とは何かについて、多くを学ばなければならない。
 オランダのチューリップ球根への投機が失敗に終わった歴史は、今なお私たちが繰り返しているものでもある。バブル経済がはじけたことも、まさにそれである。著者は、伝道者の書を開いて、同じことがまた歴史の中で起こることを強調している。人間は、いつでも、自分だけは別でなんとかなるのだ、と固く信じているらしい。
 最後に、経済の未来について、環境問題に関連させて結んでいる。本当に、そうだ。こんなに易しい言葉で、人類の生活と歴史について、これほどに簡潔に表現できるのかと、驚くばかりである。ドイツでベストセラーだというのも、肯ける一冊である。




Takapan
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