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『ヴォーリズ評伝』

ホンとの本

『ヴォーリズ評伝』
奥村直彦
港の人
\3780
2005.81

 ウィリアム・メレル・ヴォーリズは、1905年2月に滋賀に来てから、そこを世界の中心だと呼びつつ、日本を愛し、日本に神の国を実現すべく一生を送った。
 もちろん、その建築に関する貢献は広く知られている。近江兄弟社の存在も、ヴォーリズについて知る重要な一因であろう。日本の終戦にまつわる貢献などについてもご存知の方はいらっしゃることと思う。
 しかし、ヴォーリズは、神の国を実現したかったのではなかったか。その信仰はどのように貫かれて、何を望んでいたのか。そういう観点から評価するのは、実に難しい。評価する人自らも、信仰に立つものでなければ、できない仕事だからである。サブタイトルの「日本で隣人愛を実践したアメリカ人」という言葉の理解も、同様である。
 奥村氏は、かつて近江兄弟社の学園長としても活躍され、また今では牧師という立場である。何より、直接ヴォーリズ夫妻から教えを受けた当事者であることゆえに、これだけの研究が可能となった。
 ヴォーリズの家系について調べるために、アメリカはもちろん、その祖先と言われるオランダまでも尋ね歩いている。それゆえ、ヴォーリズの研究については、右に出る人がいない。
 通常ではわかり得ない部分にまでも、実に事細かく触れ、実証的に説明していかれるので、信用度も高い。そして、何よりも神への信仰の姿を深く知ることができる。ただ、ヴォーリズについての一定の知識がないと、その伝わり効果も半減するのかもしれないと思うと、これだけの厚みをもたせて多方面に説明しても、すべてが伝わるのではないのだなと、改めて現実に引き戻される気がする。
 伝記とは殊なり、ヴォーリズが幾多の重要人物と出会った事柄については、あまり詳述されない。あくまでも、ヴォーリズには確かに見えていた「神の国」を目指して歩き続ける信仰者の、どちらかというと孤高の姿がそこに描かれる。
 しかし、それにしても類書がないだけに、感動と迫力とは大いにここに満ちている。信頼のおける一冊として、信仰を学ぶためにも、読み甲斐のある本であった。




Takapan
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