本

『ここが世界の中心です』

ホンとの本

『ここが世界の中心です』
国松俊英作
依光隆絵
PHP研究所
\1260
1998.12

 メレル・ヴォーリズの伝記である。
 ヴォーリズについて話し始めると、枚挙に遑がないほどに、多大な業績やエピソードが並ぶ。尊敬する人の一人である。
 かつて私が勤務していた、京都YMCAの三条本館も、元々ヴォーリズの設計によるものであった。近江兄弟社のメンソレータムは、今は名を換える事情となったが、メンタームとして事業を残すこととなった。
 明治末期にキリスト教伝道を胸に日本を訪れた彼であったが、宣教師としてではなかった。当初は想定していなかった建築の腕が、後の日本を大きく変えていくことになるとは、このときの若者ヴォーリズは気づいていなかった。
 多くの建築を設計し、その見事さは今なお残る幾多の建物によっても証明されている。あの関東大震災のときにも、彼が設計した建物はすべて残ったというのだ。
 耐震構造偽造の設計者や建設会社とは、向いている方角が最初から違う。
 この本は、子ども向けの本である。私はしばしば指摘しているが、子どもに分かるように物事を記すというのは、たいへん難しい。内容のあることをきちんと説明するためには、相当の技術が伴う。これは多くの漢字にふりがなを振っている本であるのに、実に人間の魂の真底にあるものが伝わってくる。
 私の眼に、熱いものが幾度となく溢れた。
 若い時期のヴォーリズの、一歩一歩たどたどしい歩みに頁を割き、後の多くの建築的貢献の場面はさらりと流したあたりは、読者を配慮したものだと思うが、若いときの紆余曲折を辿るというのは、たしかに意味がある。まだこんなことができる、そんな気にさせてくれる力をもった文章の勢いは、子どもだけの本に留めておくにはもったいない。ぜひ、大人の方々、読みましょう。
 そして、教会員の方々、信仰とは何かを、こんなに分かりやすく教えてくれる本も、少ないと思うのです。教会運営とか神学的なんとかに明け暮れる日々の中で、一度この本に浸ってみましょう。また、教会学校のみなさん、これはぜひ読みたい本です。みなさんの未来を、変える力をもっている本です。




Takapan
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