本

『バチカン』

ホンとの本

『バチカン』
郷富佐子
岩波新書1098
\777
2007.10

 岩波新書は、どうかすると熟読できないときがある。斜め読みというのは言い過ぎだが、場合によっては、主張の筋が読みとれたら、それで満足できる場合がある。
 だが、この本は、熟読した。どの行の情報をも、逃したくないという気持ちになった。さすが現場で長く特派員として密着していた人である。記事にできなかった情報を含め、さまざまなエピソードを所有している。それをあちこちにちりばめた上で、バチカン全体の問題と指針などを紹介しているのだ。見逃せない情報が、きらめいていた。
 カトリックが何を考えているのか、何を大切にしているのか、そんなこともここから伝わってくる。
 ヨハネ・パウロ2世からベネディクト16世への代替わりのルポも面白かった。それぞれの法王の生い立ちや個性も、こんなによく分かる形で知らせてくれる本があっただろうか、とさえ思った。
 また、それぞれの時代の中でどんな仕事がなされたのか、その意義は、という問題も実に簡潔に紹介されていく。それは、カトリック内部の視点であるばかりではない。たんなる信者ではない報道の目からは、それが政治的にどういうものであったかを冷静に捉えている。イタリア人と法王との関係も実に人間的意味を含んだものとして、楽しく読ませていただいた。
 笑ったのは、著者が「蛇足」と称していたにせよ、やはり十戒についてのアンケートだろうか。イタリア人に、好きな十戒のアンケートをとったという。その結果、「殺すな」「盗むな」「父母を敬え」の順だったというが、さて、最も人気がなかったのは――答えはこの本のp186-187をお読みいただきたい。
 そして最後には、これからカトリックが何を目指していこうとしているのか、が語られる。それも、二千年の歴史を踏まえた動きから解説されるのであるから、スケールが大きい。普遍的な理想を掲げるこの教会組織は、やはりひとつの強いまとまりを目ざしあるいは作ることで、世界を大きく変えていく力をもつのである。中にレポートされているように、世界の各地では、およそカトリックとは信じられないようなあり方をしている地域もあるようだが。
 およそ宗教に強い関心のない、政治的志向のある人でも、世界を動かす大きな力としてこのバチカンを知らないことには、何の見解ももてないであろうことは、お分かりだろうと思う。この本は、手早くそのバチカンの内実を教えてくれるものとして、広く読まれてもらいたいという感想をもった。
 サブタイトルは「ローマ法王庁は、いま」となっている。この本が十年後にはこのタイトルは付けにくいかもしれないが、「いま」に相応しく、増補をして世に出し続けてもらえないだろうか。




Takapan
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