本

『子ぷたのトリュフ』

ホンとの本

『子ぷたのトリュフ』
ヘレン・ピータース文
エリー・スノードン絵
もりうちすみこ訳
さ・え・ら書房
\1400+
2018.1.

 愛らしいイラストが表紙に描かれている。これだけでもう何も考えずに図書館からこれを借りることに決めた。
 この絵の描き方は、日本人にはなかなかないタイプ。ぶたの顔は丸くなんかないのである。耳だって、かっこいいんだから。
 農場主の娘、ジャスミンは、カーターさんの農場でぶたが生まれたと聞いて見に行く。そこで一匹、兄弟たちにつぶされそうになりなっていた、未熟気味の一匹の子ぶたを見つける。このおチビちゃんを可愛く思ったジャスミンであったが、それよりも、乳を飲む力がないことに気づく。カーターさんに知らせるが、そういうのはもう死んでしまうと冷たい。しかしほうっておくと死ぬことは分かり切っているから、ジャスミンはこっそりその子ぶたを連れて帰る。
 ジャスミンの母親は家畜の獣医をしているため、多少の道具などは揃っている。粉末初乳を持ち出す。家族には内緒だ。父親は猛反対することが分かっている。そんな中で、子ぶたに乳を飲ませることに成功するのだが、このあたりで家族の目を盗むシーンはなかなかスリルがある。
 結局、見つかったが、反対されることはなく、カーターさんにも詫びて、飼うことになる。1週間後、親友のトムが訪ねてくる。トムはモルモットを飼っている。このことは、物語のクライマックスに関係するが、もちろんここで何もかもばらすつもりはない。  動物もいくつか出てくるし、その中でトリュフと名づけられたこの子ぶたも、一定の役割を満たすようになる。ぶたは嗅覚が優れているという話を聞いて、ジャスミンは隠したボールを探させるなど訓練をする。トリュフはなかなか能力が高く、隠しても隠しても見つけてくる。このことも、物語で大きな意味をもつことになる。
 動物たちと共に生きている様子がよく描かれているし、それぞれの家族などの立場もよく描き分けられていて、リアル感がある。
 おとなの感情をも揺り動かすものがあるが、物語はいたって淡々と描かれている。わざとらしいところがなく、農場での風景とそこにいる子どもの心の動きがよく描かれているとはいえ、なんらオーバーな調子ではないというのに、どうしてこんなに物語が迫ってくるのだろう。それはひとつには、リアルだからではないかという気がする。不自然なことはないというどころか、そもそも作者自身がこのような農場で生まれ育ったのである。また実際にネコやモルモットも飼っており、まさに日常の真実を書いているだけだという気もする。現実に、このようないくつかの出来事があって、それを懐かしく思いながら綴っているのではないだろうか。読者も、そのファンタジーの世界に実際にいるような気持ちになりながら、読み進むことができる。
 少年少女小説である。もちろん、成長もある。ジャスミンが大人との社会に囲まれた中で、一途に動物をただ愛するという思いから、自らを犠牲にしてでも守ろうとする逞しい姿を見せるようになっていく。動物救急センターを開くなどの夢を口にしながら、現実問題を知る中でその夢にどのように近づくか、その都度考えもするわけで、ただの「好き」ではなくて、これから学ぶことへの眼差しもここに強く感じられる。
 最後のクリスマスのシーンは、ホワイトクリスマスでもあるのだが、それよりも、大事件が起こり、トリュフが活躍することになる。最後はすべてにわたり最も望ましい結末が与えられ、読者たる子どもたちも喜ぶことだろう。
 命を助けられたトリュフは、きっとそのことが分かるのだろう。ぶたはかなり頭がいいと言われる。なかなかのキャラクターなのである。
 わが家にはぶたの人形などが、どれだけあるか数えたこともないくらいある。もちろんこの絵のトリュフのようなタイプである。平気でぶた肉を食べている毎日が、このトリュフのことを思うと、なんて残酷なんだという気がしてきた。これでよいのだろうか、と問わなければならなくなった。他の誰かのせいにするよりも、まずは自分から、ということになるはずだったのだが、そこはなかなか意志が弱い。




Takapan
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