本

『ひみつのウミウシ』

ホンとの本

『ひみつのウミウシ』
水谷知世写真・文
誠文堂新光社
\1680
2011.3.

 私は、ウミウシが好きだ。
 子どものころ、海辺の図鑑なるものを見るのが好きだったが、とりわけ、ウミウシの頁には心を奪われ、いつも眺めていた。
 色がきれいだ。そして、なんとも得体の知れない生物である。
 そもそも、海の中には、形の定まらない生物が多い。陸上で暮らすということは、陸上において重力と戦い、敵から逃げるなどの目的の故に、自ずから生物体の形は決まってくるものであるが、水中だと、その制限が緩和される。重力は浮力で打ち消される故、形に関してはかなりの自由度が利く。
 しかし、わざわざウミウシだけの本を出版しようとする人は、あまり現れなかった。そもそも、マイナーである。実際に見たことのある人も少ないし、水族館でも出会うことは稀である。また、飼うとなると不可能に近い。いったい何のために本を買うのだ、ということになる。基本的に、クラゲもこれに近い。しかし、クラゲはふとしたことから人気が出たし、水族館にもほぼいると見てよい。中にはクラゲ専門というようなところもあるという。だが、ウミウシは、これほど可愛いのに、ブームにはならない。
 そもそも、水族館でも、これを育てるのが難しいのではないか。まして、繁殖ともなると、不可能に近いのではないか。案の定、この本の著者も、その点を指摘していた。私の思惑通りだった。個人が飼育となると、もうはっきりと、不可能だと書いている。
 しかし、本の表紙は、ウミウシへの愛情については、諦めない。「ウミウシがもっと好きになる。あっと驚く美しいウミウシ90種と知っておきたいウミウシ・ネタ」と小さな字で書かれ、タイトルに付け加えるかのようにして、「分類のコツから撮影方法、楽しみ方まで」とやはり小さな文字で書かれている。やはり、この人も、ウミウシが好きなのだ。いや、私どころではない。ダイビングをすることにより、直にウミウシと向き合い、つきあっている人なのである。
 なにより、写真がきれいである。表紙の、とぼけたマンガの顔のようなウミウシの模様はまず誰もの目を惹くに決まっているし、中にあるもろもろの写真が、もう海の中の花を撮影しているに違いないと思わせるような見事さなのである。ダイビング・ガイドが本職であるそうだが、もうウミウシ・フリークの域にあることだと思うし、それが実に羨ましい。
 そもそもウミウシとは何であるのか。どんなおもしろいやつがいるのか。ウミウシはどういう構造をもっているのか。色別、模様別の編集。とこでウミウシは細かく分類されるのか。名前はどうしてついているのか。ウミウシはどういう一生を送るのか。そして、実際にウミウシを見るにはどうすればよいのか。見つけたらどうしてあげるのがよいのか。どこを鑑賞するとよいのか。
 著者の親切は、こよなく愛するウミウシのためにこそ、われわれ人間に向けられている。いやあ、もうウミウシへの限りない愛情がそこかしこに現れている。そして、ちりばめられている写真が、よだれが出るほど美しい。
 数少ないながらも、ウミウシのグッズまで紹介されていた。
 これはもう、図書館に返却したくないと思うようになった。




Takapan
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