本

『サウンド・オブ・ミュージック』

ホンとの本

『サウンド・オブ・ミュージック』
The Story of the Trapp Family Singers
マリア・フォン・トラップ
谷口由美子訳
文溪堂
\1,700
1997.11

「聖書にこういうことばがある。『なによりもまず神の国と神の義をもとめなさい。そうすれば、それにくわえてこれらのものはすべてあたえられる』(マタイによる福音書より)。いまわたしたちは、これまでなんどとなくきいたり、読んだりしてきたこのことばが、ほんとうにその通りなのか、それをたしかめるチャンスに恵まれたのだ」この言葉で結ばれる、名著の第一部。訳本では、そこで一冊が終わる形になっている。ゲオルク艦長、いわゆるトラップ大佐の言葉である。
 この映画については、説明は不要だろう。数々の名曲を織り込んだミュージカル映画であるし、元々ドイツで『菩提樹』と題した映画として作られたものを想起される方もおいでだろう。修道院から家庭教師として派遣されたマリアが、七人の子どもたちに歌を通して人生を明るく強く生きていくことを教え、気むずかしいその父親であるゲオルクとついに結婚する。それから一家は、家族で歌うという機会に恵まれ、それがプロさながらに展開していく。しかし時に祖国オーストリアは、ナチスドイツに占領され、国はカギ十字に染まっていく。しかし、トラップ一家はそれに抵抗し、祖国よ永久にと歌い上げた末、アメリカに亡命する……。冒頭の言葉は、ナチスに屈することなく国を出ようとするときに、父親が子どもたちを集めて語ったものである。
 口で言うのは簡単なことかもしれない。だがこの一家の子どもたちも、学校で、ナチスへの傾倒を教養する教師たちに対して、ハイルヒトラーとは言えないと唇を噛み、教師から最後通告を受けたりする。艦長も、ナチスの船を与えようとの命令を与えられつつ、それをきっぱりと拒否することになる。合唱一家は、ヒトラーのために歌えば豊かな生活を送ることができるという誘いも受けている。こうしたことは、日本の半世紀余り前のことを考えただけでも、とてもできることではない。しかも、修道女マリアの影響もあり、一家は聖書に学び、聖書を家庭の中心に据えて暮らすことを始めている。人間として、神に従う者として、ナチスに加担はできない――そうして、亡命に至るのだ。
 今の日本は、平和に違いない。自由であると言ってよい。だが、不穏な空気がないわけではない。権力者の意見に従わない者は敵視されるという風土をもつ国(そうでない国の方が少ないだろうが、日本は強い面があると言えるだろう)である。いざというとき、私たちは、人間に与するのか、神に与するのか、問われることになる。聖書は語る。そのときには、聖霊が導くであろう。ゆえに思い悩むな、と。トラップ一家もまた、聖書が示すままに向かった。そこに迷いや悩みはなかった。歌声と共に、決死の覚悟で、権力に逆らいつつ、神に従う。クリスチャンとしてのみならず、どうか人間として、この一家の足跡を、一つの道しるべとお考え戴きたいと願う。




Takapan
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