本

『日本手話で学ぶ 手話言語学の基礎』

ホンとの本

『日本手話で学ぶ 手話言語学の基礎』
松岡和美
くろしお出版
\2500+
2015.10.

 出版以来、ずっと気になっていた。だが、若干高価に感じられたのと、そこまで自分は手話について理解できるだろうかという思いがあって、買うのを手控えていた。それが、勢いというものだろうか、今回どうしても読みたいと思うようになった。何事も時があるものであろう。
 日本手話がポイントである。但し、著者は聴者である。ネイティブサイナー(手話のことはサインと呼ばれるのでこれを使う人をサイナーと称している)ではない故、これを学的にまとめあげるということについては、不十分な点があるかもしれない。それは著者自身が一番よく分かっている。最後に身の上が明かされているが、文法的な研究の中でアメリカで手話と出会い惹かれていったとき、日本手話についての研究が全くと言ってよいほどなされていない現状に愕然とし、探究を進めたということであるらしい。事実その通りだと思う。そもそも言語として捉えられていないものであったが故に、研究も何もないわけである。この愕然としたのが2000年であったというから、日本の手話に対する考え方が如何にその研究に対して無開発・無関心であったかということが分かる。
 ようやく日本でも、手話を言語として扱う条例が各地で成立し始めた。本書でも著者とそのグループが、手話がどうして言語として見られないのか分からない、とぼやきさえしています。実に、ようやく、です。でも、期待を持ちたいものです。だからこそ、これからは、その言語学的な研究が始まり、進んで行くのではないか、と。
 本書は、言語学的な視点から、手話を分析していく。手話について実際に「日本語対応手話」でもよいからいくらか使ったことがある人は、十分に読み進めることができる。但し、言語学についての一定の関心は必要であろう。これを読めば手話ができるようになるというわけではないのだ。
 NHKの「みんなの手話」が、2015年あたりからだろうか、内容が難しくなってきた。初心者がなんとか、日本語対応手話ができればよい、というような観点から作られていた過去のこの番組とは異なり、明らかに日本手話の文法や考え方を取り入れ、それを前面に出すようになってきたのだ。これは立派な中級番組であると言えるだろう。そこで私も、CL表現やPT(人称)という言語学的な概念を知るようになった。そしてその考え方の延長に、本書があったのである。
 写真も豊富で、まとめもあり、どういう点を押さえてきたかも明確にされる。DVDが附録で、そのために少し値がついていることになるが、それで実際の日本手話の動きが見て取れる。手話という言語については、まさに視覚的動きがものをいうのであるから、こうしたメディアは大切である。
 本書は最後に近づくにつれ、子どもが言語として手話を取得するにあたり何が起こっているのかという、大切な観点から手話言語学が語られようとする。また、こうした学問をどう捉え進めていくのかという、学究的なあり方も提示される。これは、研究者や後継者を生み出し、育むことになるだろう。そうした意味でも、良い本である。




Takapan
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