本

『ビジュアル版 学校の歴史4 教科書・課外活動・災害編』

ホンとの本

『ビジュアル版 学校の歴史4 教科書・課外活動・災害編』
岩本努・保坂和雄・渡辺賢二共著
汐文社
\2625
2013.3.

 以前にもこのシリーズの本をご紹介したと思う。
 薄手で丈夫な装丁という図書館向けの本であるが、なかなか見応えがある。無駄なく、手際よく資料が集められ、紹介されている。削りに削った内容が盛られているため、ストレートに内容が伝わる。いつも言うことだが、大人こそ、こうした本で知識を整理すべきだ。
 時代は明治期から。しかし、教科書は当初なかった。掛図あるいは指教図と呼ばれるものが用いられていた。それはその後も使われていくが、しだいに教科書なるものが用いられるようになる。最初は教科書は各学校の自由発行だったというのは知らなかった。たしかに、今日の塾のような扱いだと、それぞれがそれぞれの責任でテキストを使って問題はない。言われればそうだが、どうも固定観念に囚われていたようだ。豊かな資料で、国定教科書も、第1期から第5期まで紹介されていき、戦後の新しい教科書に至る。
 それから、桃太郎を題材に、どういう目的で、どのようにそれが教科書に掲載されてきたのかが示される。日本人ならば昔話とくれば頭にすぐに思い浮かぶのが桃太郎であろう。しかし考えてみれば奇妙だ。いろいろな昔話があってよいはずなのだが、誰もがまずそれを思う。これには、教科書を用いて刷り込まれてきた歴史があったのだ。英雄や出世といったモチーフが巧みに盛り込まれ、やがてそれは八紘一宇の中で賞讃されていく。これが、戦後に大改訂を受けることになるのだが、ひとつの話の基本がどれほど時の情勢により変更され利用されていくかを見る思いがする。芥川龍之介は、これを逆手にとって、桃太郎の横暴ぶりを描いたが、それにはこういう背景があったのだ。
 墨塗りの教科書も実物が写真で掲載されているのは珍しい。墨が薄く塗られたくらいでは、下の文字ははっきり見えるのであるが、そこはそれ、隠したということにしておかれたようだ。敗戦翌年の教科書も改訂が間に合わず、墨の箇所を省いて印刷しただけのものが出まわっていたらしい。こういう歴史も、コンパクトに紹介されているが、インパクトは強い。
 本は質問形式で進むので、脈絡なく展開するかのようで、いろいろな疑問から答える形になっている。集団疎開もこんな資料で簡潔に示されるというのは驚きである。また、戦後の民主主義の紹介から、児童会なども新しい戦後教育を見事に反映しているわけで、興味深い。部活についても、戦争の時期がどういう考えに基づいていたのか、さりげなく子どもたちにアピールするように書かれてある。
 そして最後に、災害について。いたましい災害を学校が襲ったときに、子どもたちはどう被災し、あるいは切り抜けたのか。そこから何を学ぶのか。これからのためにどう備えていればよいのか。いくつかの災害の実例を写真とともに、実に簡単な紹介ではあるがここにはっきりと見せ、子どもたちに考えさせる内容となっている。もちろん、最後は東日本大震災である。
 一言で、分かりやすい事柄の紹介。簡単なようで、こういうことをまとめるのは難しい。しかも豊富な資料をそこに置く。これだけのまとめを完成するには、膨大な知識と長年の研究や努力が必要とされるはずだ。共著の方々のご苦労には頭が下がる。もっともっと伝えたいことがあるはず。だが、こうして客観的に示すという仕事を通じて、次の世代が、適切に歴史を受け止め、平和を生むように判断していくことができるように、と願ってのことであるに違いない。その心に私も加わりたいと思った。




Takapan
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