本

『SDGs入門 未来を変えるみんなのために』

ホンとの本

『SDGs入門 未来を変えるみんなのために』
蟹江憲史
岩波書店
\1450+
2021.9.

 まるで流行語のように広まった、SDGs。Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称であるが、使われている場面により、まるで経済成長の道具であるかのように見えることもある。もちろん、その意味もどこかに関係しているけれども、主眼は何だろうか。つまり、持続とは何であるのか、思い浮かべるものが人によって異なるかもしれないということだ。
 SDGsは、2015年9月の国連サミットで採択された宣言である。2016年から2030年の15年間で、国連加盟国の間で達成することを目指している。その項目は17掲げられており、世界で課題とすべき問題となっている。貧困をなくそう、ということから、飢餓をゼロにする、といった人における問題もあり、さらに環境の問題も加わり、気候変動や海洋の保護、そして平和の実現といった、かなり理念的なものも並んでいる。一つひとつは検索すればすぐに一覧が出てくるはずである。
 本書はこれを、若い世代に分かりやすく説明したものである。ジュニスタという、岩波書店の新しいシリーズで、ほぼ文章ばかりでわずかに写真があるくらいのジュニア新書より、さらにグラフィックの要素を増やし、見たままに魅力のある紹介となっている。その分、やや高価なのが、果たしてジュニア向けと言えるのかどうか、私は疑問であるが、それはさておき、力のこもった編集になっていることは間違いない。
 ターゲットは中学生であるそうだが、漢字に振り仮名がしばしば付いているので、小学校高学年にも読ませたいと思っているのではないか、と推察する。  最初に、本書の内容が箇条書きでまとめられ、この本のあらましが一瞬で見てとれる。
 まず、SDGsとは何か、通り一遍の説明ではなしに、十分噛み砕いた説明がなされる。まるで十分な時間を使った、授業のようである。そう、語るように、十分意を回した説明になっているのである。
 それからこの目標がどういう経路でできたのかについては簡単に済ませ、その後17の目標について、一つひとつ丁寧にその内容を説明する。これも、語る授業のようで、実に親切だ。配慮の行き届いた解説となっていると思う。17をきちんと説明していくので、読む側とすれば少しだらけてしまうかもしれない懸念はある。が、何か調べるためにここを開いたとすれば、一つひとつを丁寧に知っていくのに非常に役立つことであろう。
 最初に経済のことを挙げたが、このSDGsについてもうひとつ、これは環境問題だ、というふうに捉えている人もいようかと思う。それも含まれるが、それだけではない。「持続」というのは、この世界が続いていくことを意味するから、環境問題というのはもちろん重大な要件である。だが、同時に生きる人類の平和の下にあるつながりや社会活動もそこにはあるだろう。そう考えると、およそ人間が生きるために行い営みが全部そこに関わってくるのだとも言えると思われる。但し、そうすると、環境ということがやはり視野から漏れがちであったというのが、従来の私たちの世界観であった。
 そう、主観と客観の対立の図式に基づく近代的思考が、これをすっかり壊してしまった。そこにキリスト教が影響しているということも大いに責任を覚えるべきである。渡したはこの近代的思考の問題に気づき、批判するようなことも今ではできるようになったが、なおもこの近代的思考の内にいるのだと捉えなければならないものだろうとは思う。
 しかも、欧米主体の歴史の中で生まれた問題が多くここにあることから、今後は今まで周辺とされていた諸国や文化からの方針や運営も、どうしても必要になるが、さてそのような向きに私たちは動いて行くことができるのであろう。つまり、現状の経済的優位に立つ国々の発言力に左右されるばかりではないのか、と私たちは警戒しなければなるまい。
 それから、このSDGsは「だれ一人取り残されない」未来を作ることを目指しているのだと思うが、それは明らかに困難を窮める。交通事故死亡ゼロは悲願ではあっても、本当にゼロというのは望めそうにないのと同じように、取り残されないということをすべての人に向けていることは、気概としてはその通りでよいにしても、現実味があるのかどうか、また現実をどう関係づけるというのか、その辺りに曖昧なものが混じるのではないだろうか。
 しかし、本書の良さは、なんといっても、何も知らない小中学生が、分かると言えるようになるように書かれていることであって、それは同時に、大人もまた、一読して知ることができるということでもある、その辺り゛てはなかろうか。「入門」などと掲げておいて、とてもその門の内側に入れないような読みづらい本が多い中で、本書は様々な視点をも取り入れつつ、一つひとつの項目までも丁寧に解説しているのはありがたい。
 そして、読んだだけ、知っただけではなく、私たちは行動を起こさなければならない。あるいはまた、ここにある項目の修正が必要でないか、考える機会としたい。
 持続、それは未来ということである。子どもたち、そして子孫へと、命をつないでいかなければならない。もはやエネルギー源はその殆どが有限である。原理的に言って永遠の持続は不可能である。それを踏まえた上で、資源を食いつぶしている自分たちへの自己批判がスタートになければならないだろうと私は思うのだが、国連はそんな精神論を必要とする機関ではあるまい。だからまた、哲学というものが必要なのである。




Takapan
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