本

『ラッセルのパラドックス』

ホンとの本

『ラッセルのパラドックス』
三浦俊彦
岩波新書975
\777
2005.10

 謎から入る。「この犬は、吠える」と「犬は、吠える」と二つの文があるのだが、このうちの一つは真だが、もう片方は真でないという。
 見事におびき出された恰好で、著者の掲げるラッセルの世界に足を踏み入れることとなる。本書を読み進めていけば、やがてこの謎が理解できるようになる、という具合である。
 もちろん、意地悪クイズではないし、頓知で答えるようなものでもない。純粋に、論理学的見解から、これらの文の違いを決定づけた、ラッセルの功績を見直すという目論見も兼ねている。
 バートランド・ラッセル卿は、哲学者としては実に掴みがたいところがあり、長生きしたこともあるが、頻繁に自分の見解を変えていったというため、哲学者として紹介しにくい面をもつ。ただ、数理哲学関係では、大きな著作があり、業績があるために、そこに一定の評価をすることは、間違いなくできるのである。
 著者は、このラッセル哲学、あるいはラッセル論理学あるいは数理哲学という方面を、できるだけ興味深く、そして理解しやすいように、この本で紹介することに、成功したといえよう。
 もとより、それでも複雑で巧妙な論理の世界の掲げることである、素人には理解しづらいところは多々ある。それでも、お勧めするのは、できるだけ最初のほうを気にしないことである。ただ、およその主張は抑えておくほうが、後半を楽しむためにはよいだろう。後半は、まさに人生観と呼ぶに相応しいような、大きなテーマが、ラッセルの流れに乗せて紹介される。
 読み応えのある本であるが、可能なら、さらに通俗的に展開される、クイズが多用された、ラッセル数理哲学の入門書が施されるとよいだろう。そうすれば、ますますラッセルのことが広く知られるようになるであろう。
 かつて私はラッセルの『哲学入門』を読んで、哲学の本当に入門を果たした。文庫本で気楽に読めたあの輝くような世界を、今また読もうとする若者が、どれほどいるのだろうか。




Takapan
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