『ルノワール作品集』
大橋奈都子
東京美術
\3200+
2025.5.
ルノワールは、私の好きな画家だ。中学を卒業して、高校までの春休み、私は奮発して、ルノワールの画集を購入した。ハードカバーの立派なもので、しかも英語だった。英語の訓練に、とも思ったのだ。どの程度読めたのかは頼りないが、画そのものも楽しめた。
どうして好きになったのか、記憶がない。ただ、女性の肌の色が、私には神秘的だった。それは青や緑が鏤められている。だが、暗くなどならない。透けるような明るさがその肌にあった。
印象派というグループにも興味があった。ルノワールは、その中心にいたかどうかは難しいが、デッサンや形というよりは、光の輝きを伝える意味では、印象派としても活躍していたことは確かだろう。
しかし、私は、という限定で綴るが、ルノワールの絵は、必ずしも巧くないと思っている。デッサンの点でも、なんだか曖昧なところが多すぎる。
ピカソは、たとえばこれが絵かと思わせるようなものがよく知られている。だが、若いころのデッサンは実に写実的で、巧い。だがルノワールは、精密で正確なデッサンの作品というものが、まず見られないのだ。老いて、リュウマチのために手が震えたというのならまだ分かる。だが、ある意味でそうなってからも、以前と変わらないような画をもたらしているようにさえ見えるのだ。
でも、好きだ。その魅力を、言葉にすることも、できそうにない。
カバーはソフトだが、A4サイズでたっぷり190頁余りあると、充実感がある。細部もよく際限されている。画集によくあるハードタイプの用紙ではなく、薄いソフトカバーに見合った用紙なので、重くもないし、柔軟である。表面も、ありがちなつるつるの光沢は期待できないが、十分美しい。
それぞれの絵には、そう長くはないが、決して短いとは言えない解説が一つひとつ付けられている。描かれた年と大きさが記され、現在どこの美術館に保管されているか、も載せられている。どのようにして描かれたかや、その絵がどういう経緯で動いたかなどのエピソードも盛り込まれている。もちろん、その絵のもつ意味や描かれているものについての説明も付せられており、よくこれだけ短い中に全部書かれたものだと驚く。
障害を七つの時期に分けて編集され、その時期のルノワールの生活や、絵画の意義についての説明が、それぞれ1頁を割かれて説明されている。決してごちゃごちゃしていないので、素人でも十分分かりやすく読める。専門家にとっては、周知のことばかりなのだろうが、一般の読者にとってはこれでよいのではないだろうか。
時折、コラムのように、どこかに注目した詳しい説明があるのもいい。簡単な説明に収められない内容が、特記されているのだ。これはすべて挙げておこう。「モネとルノワール」「ルノワールの自画像」「ルノワールと旅」「《大水浴図》をめぐって」「ピアノの前の少女たち」、そして「晩年の作品と次世代の画家たち」という具合である。
たとえば「大水浴図」については、それがヴェルサイユ宮殿の庭園にある「水浴するニンフたち」から着想を得たという。それは彫刻家のレリーフである。それは恐らくイタリア旅行で感銘を受けたフレスコ画に感化されたのだろうと推測し、印象派の手法とは違う制作の仕方にも触れる。フランスの伝統を意識していたであろうこと、その素描が巧みに描かれたのち、「装飾画の試み」として描かれたことが明らかにされた。商業的には恵まれなかったものの、新しい試みであることは認められていたという。自らの表現を探究していたと共に、画商や画家仲間たちの言葉に柔軟に反応してゆく様子が確認されている。
最後には、ピカソがいくつものルノワールの作品を購入していること、しかもそれはすべてルノワール晩年の作であったことも明かされている。ピカソの心をも、ルノワールは掴んだのである。
年譜と索引もあり、ファンが一冊手許に所有するためには、恰好の画集だと考えた。大きく場所をとることもなく、丁寧な製本、心のこもった解説、いずれも、私の見た中でもかなり充実したものであった。価格も、これは十分満足できるものとなったと思う。
もう、亡くなって一世紀以上経つと知ると、感慨深い。また、中央辺りに、猫が2匹描かれている作品がある。これ、さほどポピュラーではないが、飾っておけるような印刷物はないかと探したら、キャンバス仕様のものがいくらかあった。やはり、知る人ぞ知るものらしい。ちょっと費用がかさむので、すぐに購入する気にはなれなかったけれども。

た
か
ぱ
ん
ワ
イ
ド