本

『ポンペイ最後の日』

ホンとの本

『ポンペイ最後の日』
エドワード=ブルワー-リットン
岡田好惠訳・河口峰子絵
講談社青い鳥文庫
\651
2001.5.

 幾度か映画化された名作。作者は19世紀に活躍。ポンペイの遺跡が発掘されたのが18世紀。紀元79年のヴェスヴィオ火山噴火の際に生じた火砕流によって壊滅したローマ帝国の大都市は、あまりにも急に、火山灰に埋もれたため、そのまま地中に眠ったまま時を経ていた。イギリスのリットン男爵は、実際にこのポンペイを訪ね、そのときのインスピレーションを基に、1834年、31歳のときにこの小説を著したという。
 物語は非常に分かりやすい。人物の役割がはっきりしており、メリハリもついている。そのため現代では、むしろ少年少女に勧められる物語として提供されていることが多い。事実私が今回読んだのも、まさにそのシリーズであった。従って、長い小説の全文ではない。しかし、十分にストーリーは描かれているし、そのわくわく感が減ずるということはない。むしろ適度に端折るスピード感が、筋書きの流れをより体感できるような気さえする。
 若者たちの恋と正義感とが前面に現れる。そして悪役ははっきりしている。物語であるという性質上、ここであまりに露骨に内容を説明することは控えよう。ただ、この中に確かにクリスチャンが登場する。当時すでにこうした地にも伝わっていたのは確かだろう。しかも、ローマ人たちからすれば、クリスチャン、あるいはナザレ派のユダヤ教の変わった人々は、無神論者だと称されていた。たくさんの神々を否定するからだ。見方が変わればずいぶんと違う結論が待っているということの一つの証拠であろうか。
 闘技場で、襲いかかるはずのライオンも、すっかりおとなしくなるというシーンがあり、ダニエル書を思い起こさせる。そうしたキリスト教文化の中に生きる作者であるから当然そうなのかもしれないが、それはそれでクリスチャンの信仰を説明し、あるいは助ける働きをしているかもしれない。
 講談社や偕成社、あるいはポプラ社といった少年少女向けのシリーズを生む書店は、活字離れの世相の中、如何だろうか。良書を子どもたちへ、という願いと共に懸命に仕事をしていらっしゃる社員の皆さまだと思うが、ケータイやスマホに魂を奪われた人々の中に、正義や愛、友情や信頼、そしてまた信仰といったものを描いたこうした本が、響くようであってほしい、と私も陰ながら応援している。




Takapan
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