本

『パリ 中世の美と出会う旅』

ホンとの本

『パリ 中世の美と出会う旅』
木俣元一・芸術慎重編集部編
新潮社とんぼの本
\1470
2008.9

 パリへの憧れは、半世紀前に比べると下がってきてしまっただろうか。農業国フランスにあって、パリは、それとはまた違い、歴史を感じさせるほかにも、芸術の都として独特の雰囲気を今に伝えていると思われる。だから、やはりまだ、そこは世界の中でも特別な街なのだ。
 この本は、中世に的を絞っている。そうなると、当然教会が舞台となる。あるいは、聖書にまつわる美術ということか。宗教改革を経ることになるが、フランスは基本的にカトリックであり続けた。だからクリスチャンならばまた非常に読みやすく、感じ取りやすい。
 中世を、ロマネスクとゴシックの二つの流れに分けるのは一般的な区分であるが、こうした区分は、たんに後世の人間が便宜的に分けたものに過ぎず、当時生きていた人の意識の中でそこに線引きが行われているわけではないことを、この本は指摘する。だから、教科書的な対照表などは不要なのだ。そのとき生きていた人々は、そのときの人生を生き、そのとき見たもの感じたものを、神からの賜物として受けとめて喜んで、あるいは苦しんでいたに違いないのである。
 豊富な写真は、著者が綿密に撮り集めた成果である。実に表情豊かな、中世の美がこの本には溢れている。
 しかしパリ自体、決して古い街ではないのだという。フランス革命のときに、旧いものは容赦なく破壊されている。街並みも一変し、貴重な歴史的遺産も灰燼と化す仕打ちに遭っている。それでも、時代の嵐をくぐり抜けた歴史の宝ものが、今なお私たちに当時の様子を伝えてくれる。ありがたいものだ。
 可愛い魚の表情に思わず微笑むような、聖体拝領皿。からだ半分だけ切り取られて端っこに配置された羊飼いの石像。息を呑むようなステンドグラスはもちろんのこと、普通見られないようなアダム像の臀部など、見ていて楽しめるものがふんだんに紹介されている。
 実際に現地を旅行する人にとっても、役立つような地図などの案内もあるが、それは、歴史をまさに人の生活の中で受け取るためにも大切なことであろう。ただ何々時代に何々像が造られた、ではなく、セーヌ川の洲にそそり立つノートル・ダム大聖堂のマリア像、と捉えることのほうが、よほど現実的であろう。
 コラム的文章があちこちにちりばめられ、その味わいも深い。ロマネスクとゴシックの違いについてもそうだが、聖なる居酒屋だと称された教会の話や、一角獣に関して当時の人々の動物観なども紹介されていて、面白い。これらは木俣氏の文章である。
 パリに魅力を感じさせてくれる本。たった中世に絞っただけの、写真中心の本であるにしても、大きな役割を果たしてくれる本であるような気がする。




Takapan
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