本

『新約聖書解釈学』

ホンとの本

『新約聖書解釈学』
P.シュトゥールマッハー
斎藤忠資訳
日本キリスト教団出版局
\5200
1984.1.

 キリスト教書店で古書コーナーがあり、そこで千円という値がついているので、買ってもよいかな、と思った。著者についての予備知識はなかったし、内容もどのようであるのか、よく知らなかった。四百頁ほどあるが、40年ほど後に購入したことを思うと、当時の年代にしては元々かなり高価な本であったことが分かる。その40年後にこの値段で売られていても、買うには勇気が必要であると思う。
 かろうじて「訳者あとがき」が最後に2頁だけあり、著者についての紹介と、解釈学を取り上げた背景らしいものが少し触れられているが、内容を概観するようなところはなかった。しかし、参考文献と索引が充実しているのは、流石である。
 ただ、本書には本文の「注」というものが一切ない。原著がそうなのであろうが、引用がなされれば、巻末の参考文献を見よというように括弧付けがなされており、本文を読むにあたり、後戻ったり注を開いたり、という手間はかからなかった。でもそれでよかったのかどうか、「注」で説明してほしいと感じることもなかった。
 最初にあった著者自身による「はしがき」の中に触れられていたように、著者を導いた牧師が教えてくれたことが、ずっと軸にあるように窺える。それは「キリストにおける和解の福音の死者、また証人であること」を自分のキリスト教的義務だと捉えるものである。そこへ向けて、長い前半の紹介が費やされるようなものであった。
 テーマはもちろん新約聖書であり、その「解釈」ということの理解である。きっちりと、新約聖書を解釈するにあたり前提となる事柄の確認、解釈に関しての近年の論争がきっちりと説明される。
 綿密な目次があるので、読者はこれを頼りに、一読の後、再び考えるためのきっかけができていると思う。続いては、新約聖書の正典問題である。そして聖書の霊感の問題にも、神秘的な説を展開するといよりも、そこから浮かび上がる「解釈」の筋道を外すことがない。
 こうして、解釈にまつわる歴史的な視点を一つひとつ丁寧に押さえながら、論は進んでいく。聖書解釈の古代からの流れの第6章からの記録は、今後も参考になりそうである。それは近代に来てゆっくりとした論述となり、ブルトマンはやはり大きな位置を占める。バルトとの論争も、通り一遍ではなく、どういう点で重なりどういう点で対立するかなど、細かな指摘が寄せられ、読み応えがある。
 但し、知識のない私のせいではあるけれども、時折どうにも読みづらく、何を言いたいのか分からない場面があって弱った。くれぐれも、それは私のせいであるという意見は変えないつもりだが、もしかすると、訳者の訳し方に何か不都合があったのではないか、という気がしないでもない。日本語として、分かりづらいのである。原文が何かこみ入っているのかもしれないけれども、日本語だと、細かな助詞や助動詞で、こちらが本音でありこちらは対立意見である、ということが一目瞭然であるはずである。しかし、もってまわったように、対立意見を盛り混ぜながら著者がものを言うので、どちらが本音でありどちらが否定されるべき考えであるのかが、なかなかすうっと流れてこないように感じられて仕方がなかった。
 その後解釈学という領域もどっぷり浸かるが、知識のない私である故に、読み進めづらいところが多々あった。それでも、最後の「検証」としての、まとめ的な聖書神学の問題点を整理した章は、読み応えがあった。そこには、神学者の学説を解説することは一切なく、聖書と解釈についての、著者の考えが一気に流れるように記されている。これは読みやすかったし、実にすうっと流れが入ってきた。日本語の訳としても何の苦も感じず、新約聖書全般をコンパクトに辿る解釈の特徴なども、読みやすいと思った。妙な言い方をして申し訳ないが、本書にこれから触れる方がいたら、第15章だけをしっかり読めば、本書の伝えようとすることは十分得られるのではないかと思う。そこには「和解の福音」という言葉で説明できるような、著者の考えがふんだんに現れていた。それは、聖書を偏った真理として表に出すようなことではなく、かなり穏健に、人に信仰と命を与える書として、聖書を掲げるものであるように思えた。聖書は、教会の信仰と重なって、イエス・キリストの救いを運ぶことができる、またとない書だと思うのである。個人のみならず、教会というものをも救うようなその聖書への姿勢は、いまの私たちも十分見習うものがあると見た。こうした命の書を受け継いで、またさらに伝えてゆく、そのような使命を、私も担っているのだと思うと、身が引き締まる思いがすると共に、いくらかわくわくするような気持ちにさえなるのであった。




Takapan
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