本

『ちいさな命がくれた勇気』

ホンとの本

『ちいさな命がくれた勇気』
キャシー・ケイサー
高橋佳奈子訳
主婦の友社
\1680
2006.1

 サブタイトルは「ナチスと戦った子どもたち」。ホロコーストに関する記事を本にしている作家による、取材に基づくドキュメンタリーである。
 活字もほどよく大きく、ふりがなも多く振られており、子どもが読むことができるようになっている。子どもたちは、しばしばファンタジーが好きだけれど、こんなに歴史と現実のことが上手に書かれた本を、もっと読んでほしい、と、著者ならずとも願いたい。
 かつてのチェコスロバキアの町において、ユダヤ人の少年少女が、精神の気高さを守った。言葉にするとこのくらいのものだが、それがどんなに重く、かけがえのないものであるかは、この本を読むだけでも十分理解できる。
 話題は、「クレピー」と題された新聞にまつわる。チェコ語で「ゴシップ」という程度の意味の言葉だそうだが、これを新聞名にして、子どもたちの間で回し読みされ始めたのだそうだ。それは、ナチスの支配が強まる時期、ユダヤ人が迫害されていく中でのことであった。
 政治的新聞とは言えない。だが、ユダヤの人々の、心の自由さが、その新聞で確認され、また希望となっていった。まさに、ペンは剣より強し、である。
 関係者が収容所送りとなった後も、この新聞の保存を託された人が守り、最近になってそれが発券されたという。この本は、この新聞の証しから成っていると言ってよい。
 それは、戦争を止めたわけでもないし、ユダヤ人の幾ばくかを実際的に救ったとも言い難い。だが、悪魔に取り仕切られた時代の中で、精神の自由を喜び、希望を見失うことのなかった若い人々がいたことの、証拠である。奇跡的に生き延びた関係者がいたことから、これが再確認され、このようにして世界に発信されるようになった。ここにもまた、摂理がある。
 読者に、間違いなく「勇気」を与えることとなるだろう。
 同時に、キリスト教徒の一人として、キリストの御名のもとに、こうした残虐な仕打ちが行われていたという事実について、今一度悔い改めたい所存である。そうでもしなければ、戦争責任などと人に詰め寄ることもできないだろう。




Takapan
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