本

『新約聖書入門』

ホンとの本

『新約聖書入門』
レジス・ビュルネ
加藤隆訳
白水社文庫クセジュ892
\998
2005.10

 幾多の同名の書が世の中にあふれている。シンプルで分かりやすいが、それぞれの差別化がつけにくい。その中で、この文庫クセジュという、フランスの知性の扉が掲げたものだから、関心が向くというものだ。
 昔、同名ではないが『新約聖書を読むために』という、同じ趣旨の本がシリーズにあったそうである。そのあたり訳者によるあとがきに背景が紹介されている。また、この新たな本の意義や特徴もよく語られている。どうしても本書はフランス語圏を前提として記されているから、それを日本から読むためには、当然配慮しておかなければならないことはあるはずだ。そういう点を、このあとがきが補っていると思われるから、いっそのこと、この「あとがき」から先に読んでみたほうが、本が読みやすいのではないだろうか。
 内容は、飾りもなくセンセーショナルな言い方をするわけでもなく、実に淡々と、簡潔に、新約聖書の内容やその執筆背景が紹介されていく。それは、そもそも聖書というものをどこからどのように読んだらよいのか、初心者が道しるべにするに相応しいもの、という視点によるものであろう。
 訳者によると、そのように淡々と綴っていくこのまだ若い著者の腕前に十分な敬意と驚きとを重ねつつも、言い放っている内容に正確さを欠くのではないかと思われる点や、他の説もあるなどの場合が少なからずある点が存在することを、はっきりと伝えておく必要があるらしい。簡略化した入門書であるだけによけい、その単純な叙述を鵜呑みにしてそこから推測を膨らませるというふうな、読者にありがちな傾向を注意しておくべきである、ということのようだ。
 ただ単に新約聖書の各書の解説に留まらず、その後聖書が「写本」として伝えられた点、とくに近年「読者」の存在を加味した理解と研究が進んでいることを告げるなど、この類の一般書が案外気にしていない点を丁寧に語っているところなど、まさにそのような「読者」への配慮が行き届いているようにうかがえた。この写本の数々については、研究書の中で、あるいはなにかと断片的に耳にすることはあったのだが、その事情を系統的に説明してあるこの本によって、私はすっきり理解できた部分があった。
 昔のクセジュとデザインも変わり、紙や製本のせいか厚くなったように感じられ、今の講談社現代新書のような感覚のする本となったクセジュ。ただ、価格が1000円が標準となるのは、ちょっと高いという気がする。2、3割安くならないだろうか。内容とは関係ないけれど。




Takapan
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