本

『NHK中学生・高校生の生活と意識調査』

ホンとの本

『NHK中学生・高校生の生活と意識調査』
NHK放送文化研究所編
NHK出版
\1890
2013.6.

 NHKが、およそ10年間隔で行っている調査が2012年に行われ、その結果をまとめたのが本書である。
 たんに紙を配付したとか、電話で尋ねたとかいうものではない。かなりよく練られた方法であり、継続して行われている、意義あるものである。その時々に偶々起こったことにより結果が大きく左右されないものと思われる。つまり、調査方法そのものについても、よく考えられたものだと見てよいと思う。
 親のほうからもアンケートは集められている。そのようにして、長期にわたり、親子関係を含め、子どもたちを取り巻く環境や空気がどう変化しているかが現れてくるように配慮されている。
 本書は、その調査結果を多く掲げ、また巻末には調査のシートそのものも公開しており、調そのものを重視していることは間違いないのだが、これをまとめた読み物の部分がかなり多いため、実際読者がデータを分析して判断するという手間を必要とすることはない。だからまた、逆に、編集者の意図でデータが読まれていないか、を検証する必要もあるのだが、実際あまりその心配はないとしてよいだろう。様々な面がじっくり受け取られ、言及されている。また、過去のデータとの比較からしても、妥当な判断だろうと見てよいだろう。
 本の表紙にある、おそらく本当のタイトルとして見えるほどの大きな文字でのフレーズは、「失われた20年が生んだ"幸せ"な十代」となっている。そしてこれが、この調査のひとつの単純な結論なのだろう。そのことは、序章で概要として語られる。その後、具体的に章立てして、「楽しい学校に潜むいじめ」「ネットでつながる身近な友だち」「成績は親に左右される?」「イマドキ男女の役割分担」「中高生が幸せな理由」「ネットでつながる"幸福"な中高生」と続く。この最後のところは、研究発表とシンポジウムの内容を基にしているので、それまでの内容との重複ももちろんある。
 この調査に関わった専門家や、内容に関わりのある幾人かの人々の意見を記したコラムもあり、興味深く読むことができる。本としても、退屈させない工夫がされている。また、内容そのものにしても、興味深く、味わえる。
 いまどきの若いものは……というのは人類がつねに持ち続ける感情なのだそうだが、ともすればマスコミが大袈裟に「絵になる」報道により伝えてくる若者像といったものに、私たち大人も知らず識らず認識を左右され、当然と思い込んでいることがあるだろうと感じるが、それがこうした調査により明らかにされる。「ちがうんだ」「なるほど」といった印象をもつとすれば、それだけでも、この本が大人の目に触れることの意味があったということになるだろう。認識を改める機会となるだろうからである。
 他方、やはりアンケートはアンケートなのであって、いわゆる「ええかっこし」の心理もあるかもしれないし、誘導されてだとか、なんとなく本音は選べないとか、いろいろな要素もあるかと思うから、データの数字を絶対視する必要はない、とも考えられる。だが、それならそれで、そのように答えさせる時代の空気なり考えの流れなりがあるわけで、そこを捉えることで、世の中の実態を知るということには意義がある。
 大人は、バブルも知っているし、そこからの落ち込みという感覚もある。比較材料があるわけだが、中高生にはそれがない。生まれたときからの雰囲気の中でしか生きていないのであって、そこで育まれたことは、日常のすべての営みがそれを形成していくわけであるから、大人たちとは違う環境の中にいる。また、その大人もまた、今の子どもたちとそう大きな隔たりを感じない文化を共有している。私たちの親が戦争を経験したり、三味線や舞踊を芸能としていたりしたのとは訳が違うのだ。親がコンピュータゲームに明け暮れるような場合もあるのであって、その中で、生まれ落ちたときからコンピュータに囲まれた子どもたちがどう育つのか、何を見てどう育とうとしているのか、そんな視線や立場といったものを、大人は知ろうと努めなければならないと思う。
 NHKの調査レポートの意見を鵜呑みにすべきだというわけではないが、ここに指摘されたことは、謙虚に受け止めていきたいものだと願う。子どもを育てる親や教育を生業とする人には、必携のデータだと言えるのではないだろうか。
 ただ、これらのデータからも漏れるような、教育的環境としていわば悪いと呼ばれるような中にいるマイノリティの人もいる。障害を背負う人のデータがここにどのくらい入ってきているのか、それはどう結果に反映されているのか、それについては、本書は沈黙している。偏らないように調査がなされていることが強調されているが、はたしてその辺りはどうなのか、気になるところではある。




Takapan
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