本

『星の王子さま★学』

ホンとの本

『星の王子さま★学』
片木智年
慶應大学出版会
\1890
2005.12

 私自身、特に思い入れが強いわけではないし、通読したのも二度ほどである。ファンだと言うほどの熱意もない。でも、気になる本の一つであることは間違いない。それが、いわゆる『星の王子さま』である。なぜ「いわゆる」かというと、この原題とこれが果たしてどう重なり合うか、についても議論が起こりうるからである。
 原題のこの「プリンス」には、「君主」という意味もあるという。マキャベリの君主論はフランス語で、まさに「プリンス」なのである。ここに、決して良くはないイメージの「小さな」が付いている。著者は、この本の最初と最後で、このタイトルの問題を取り扱う。それほどに、タイトルには、作者の思いがこもっているがゆえの、大切な考察である。
 この『星の王子さま』には、多くの人の思いがこもっており、様々な解釈あるいはファンの声のような本が沢山ある。解釈者の情緒を述べているという点で読み応えのあるものも多い中で、はたしてよい手引きと言えるのかどうかは、不明でもあった。
 その意味で、語義にこだわり、原語のニュアンスも検討に加えたこの本は、実によい手引きとなった。おそらく、誰にとっても、そうであろう。さらに、フランス語の意味を伝えるのみならず、聖書的背景もよく取り上げられている。サン=テグジュペリは、この信仰の言葉を用いることなく、自分の中から生まれた言葉で表現しようともがいているが、幸か不幸か、彼の育ちの背景に存在するカトリックの空気は、ぬぐい去れないものがあったことは間違いない。もちろん、それゆえに、キリスト教から何もかもを解釈しようというのは、また横暴であろう。しかし、無視することもできないだろう、というのが著者の見解である。妥当だと思う。
 幼い頃の自分の姿を目の前に見て、それと対話をする。そんな図式を、著者は想定している。『おもひでぽろぽろ』という、スタジオジブリの映画は、まさにそれを正面から据えて描いていた。とすれば、この本の解釈も、大いにありうるということだろうと感じる。
 それはまた、私も個人的に、肯ける解釈でもある。
 少なくとも、今まで私の目に触れた、星の王子さまのための説明としては、最高度に肯定できた本ではなかったかと思う。ファンの方々の声も待ちたいものである。




Takapan
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