本

『私の大事な場所』

ホンとの本

『私の大事な場所』
ドナルド・キーン
中央公論新社
\1890
2005.2

 ニューヨークに生まれ、二十歳を前に日本語の学びを始め、戦後日本に留学し、日本文学についてただならぬ研究成果を発表してきた著者の、新聞や雑誌に寄せたコラムやエッセイを集めたもの。
 その意味ではまとまりがあると言い難い面もあり、時に読みやすいものもあれば、教養が深すぎてついて行けない部分もあると思う。
 かつてNHKのテレビ講座で顔をお見受けしたことがあるが、日本を愛し、日本語について私などよりよほど深いところをご存知の著者である。最初のほうは私にとって読みにくかったが、明治天皇についての記述については、実に説得力をもって臨んできた。
 ともすれば、右だ左だという振り分けの点からしか、明治以降の人間を見ることができない困った人々がいるが、明治天皇その人を、こんなに公平に、また尊敬と愛情をもって見つめた人がいただろうか、と感じたほどだった。
 また、本に索引をつけないとは何事だ、という正当な怒りがぶつけられてもいた。おや、と思ってこの本の末尾を改めて見ると、ちゃんと索引が施されてあった。なるほど、これはいい案だと驚いた。そう言えば、私もたしかにそのように思っていた頃があったのだ。
「漢字が消える日はくるか」の項目も、興味深く読んだ。妙な学説や考古学、あるいはただの執着のようなものからでなく、文学者の心から、つまり生きた歴史からこんなふうに語られたことは、あまりなかったのではないか、と私は思った。
 どこか、日本人の視点とは異なるようだ。それでいて、日本文学についてこれだけ愛しているということについては、驚きと尊敬の念を抱く次第である。




Takapan
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