本

『ゆとり京大生の大学論』

ホンとの本

『ゆとり京大生の大学論』
安達千李・新井翔太・大久保杏奈・竹内彩帆・萩原広道・柳田真弘
ナカニシヤ出版
\1500+
2013.6.

 大学とは何か。中世発祥の大学を問う場合もあるが、近年大学進学率が上がり、全入もありうるという時代に入ると、ますます大学の価値が問われていくことになるとも思われる。この本は、今の大学生が、いわゆる「ゆとり世代」であることにより、これまたいろいろと言われることをも含め、今の大学、とくにこの京都大学というところについて、問いかけるものである。これは、学生が立ち上げ、作り上げた本である。
 国際高等教育院が2013年に設置された。従来の教養部の変革である。これについて学内で危機感が募り、また議論が取り交わされた。
 これが、学生の間から提案され、出版へと動いていったというところがいい。いくぶん青臭い気がしないでもないが、大学とは何かという事柄について堂々と考えようとしているし、教員などにあたり、意見を集めもしている。たくさんの声が集まっているからには、それなりの礼を尽くし、さらに多くの方とも言葉をかわしたことだろうと思われる。このルポ性がまたいい。
 やたらまとめようとしない。しかし問題意識については明確であり、また真に知りたいと思うことがある。学生たちにとり、大学とはそもそも何であるのか、問わなければならないであろう。中世の大学創世期から説き明かす必要もあっただろう。大学紛争という背景をもつ教授たちとの意識の違いもあるだろう。世代的な背景や問題も含んでいよう。その中で、普遍的な「大学」という像を定めることはできないかもしれない。しかし、問わなければならない。大学とは何だろうか、と。
 題に「ゆとり世代」という冠がついている。ここがひとつの大きなポイントだ。幾度か繰り返されるが、このときの大学生は確かに「ゆとり世代」に属するが、自分から進んでゆとり世代を選んだのではない。いわば大人たちの定めた制度によってそうなったのだ。学生たちに責任がある問題ではないはずなのに、ゆとり世代とはどうのこうのと評され、価値付けられるのは、確かに理不尽であろう。ゆとり教育に問題があったとすれば、彼らの責任ではない。大人たちの責任である。だがえてして、問題がすり替えられ、若者たち自身を判断する材料として気軽に使われる言葉、それが「ゆとり世代」なのである。
 そこには、他の世代にはない良い面もあることだろう。また、もしやそうしたこととは関係なく普遍性を持つ大学という像もありうるのかもしれないが、やはり置かれたゆとり世代に属する学生たちによる大学という場所が、現状として、また方向性としてどのようなものであるべきか、そんなことは考察に値する問題であると言えるし、問わなければならないものなのでもあろう。
 教授世代のかつての京大生の姿でさえ、その前の世代のものとは違う。大正期や明治期に遡れば、またとんでもないギャップがあることだろうし、若い世代は常に、頼りなく力ないものとして見つめられていたのかもしれない。
 教授や教員の意見を揃えた上で、編集者としての学生たちが対談している様子が最後に集められている。その前の、単発的な教員の声を踏まえての話の様子であるし、読者もそれを見てきた上でそこを読むから、予備知識的な理解が進み、読みやすい。だが、この本は何かをまとめようとしている様子はない。材料を提供するので、そこから大学を共に気づいていこうではないか、という学生への問いかけであるかのようでもある。決して、そこには熟したものはないかもしれないし、体験的な深みもないかもしれない。京大生であろうとも、私たちがかつて学生時代にそうであったように、どこか頼りなく、強がっていながらも実践性に薄いのは仕方がない。それでも、問いかけることには意味がある。ここに多くの背景的素材が提供された。次は読者が、大学とは何かを考え、問いかけ、できるならば、ひとつの答えを出し合っていく番ではないだろうか。
 大学とは何か、を問いかけながら日々を送る場所、それこそが大学であるのかもしれない。一方で東大の本来の姿がそうであったように、公共の役人を育成する機関としての大学像とは違う場所で京都大学は伝統を築いてきたが、それが今の時代に、産業人の養成のように型に入れられようとしている。そのことへの危機感を通して、学生たちのこの問いかけを、次の世代も先の世代も、受け止めて真摯に考えていこうとすることが必要なのではないだろうか。そうこうしているうちに、ポストゆとり世代の大学生が大学に入り、そこを占めるようになってくることになる。そのときまでに結論めいたものは出ないかもしれないが、それでも、問いかけることについて、吝かであってはならないと堅く考えるのであった。




Takapan
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