本

『涙の預言者――エレミヤの生涯から――』

ホンとの本

『涙の預言者――エレミヤの生涯から――』
F.B.マイアー
湖浜馨訳
いのちのことば社
\1890
1982.7

 教会の本を借りて読んだという事情のため、えらく古い本となっている。今でもてにはいるのであろうか。また、装丁やサイズからしても、当時高価であったことと思われる。
 テーマは、エレミヤ。紀元前7世紀から6世紀にかけての、ユダ王国の預言者である。旧約聖書の中でも「エレミヤ書」という大きな巻ができており、ヨシヤ王の宗教改革と共に活動を始めているようなところがある。奇蹟を起こしたというよりも、政治的な様々のエピソードをたたえており、人間味あふれる預言者である。それでいて、その預言者としての活動の末期に、ユダはエルサレム陥落という前代未聞の苦難を味わっており、エレミヤは、せっかく宗教改革でユダ王国が神に帰り神の祝福を受けるという期待をしていたにも拘わらず、同盟国関係に失敗したなどの背景もあって、ついに王国滅亡となる。いわゆるバビロン捕囚を経験する。
 このエレミヤは、人間のドラマとして見たときにも、比較的分かりやすい生涯を送っている。だから、エレミヤはいわば大河ドラマの主人公となりうる人生を歩んだと見てよい。
 この本は、そのエレミヤの足跡を辿ると共に、そこに実はキリストが浮かび上がるようになっている、という前提によって、じっくりエレミヤを映し出している。
 それは、読者である私たちとも重なってくる。では自分の信仰生活において、何をどうすればよいのか。何がどう神の目に映るというのか、あのエレミヤだったらどうするのか。そんなふうに、読者自身の観察というところに戻ってくるし、戻ってくるのでなければ、おそらくは信仰書などではない。
 個人的に、私はエレミヤが大好きである。それで、小説としてエレミヤを描いたことがある。エレミヤ書をベースに、他の巻も参考にした。また、エレミヤにまつわるエピソードも採用した。それは確かに、大きなドラマであった。私自身の人生の選択にも大切なものがあることを教えてくれた預言書であった。
 有意義な本であるが、しばしば絶版となるし、さらに出版部数の関係もあるのだろうか、価格が高めに設定される。優れた信仰書は、できるだけ安価に、信徒にもたらされうるようなものとして流通させてもらいたい。そんなふうに願いたくなる。
 エレミヤ書は、時間順にまとめられていないので、そのまま読んでも話が前後して分かりにくい。しかし、よい研究も最近進んでいるので、エレミヤの生涯に沿うように再構成することもほぼできるようになってきた。ドラマとしても信仰書としても、これを読めば有意義な時間が過ごせることだろう。筆者は、エレミヤの生涯には、キリストの生涯と大いに重なる部分があるのだという。私も、多分にそんな気がする。




Takapan
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