本

『まるごと日本の道具』

ホンとの本

『まるごと日本の道具』
面矢慎介
学研
\2100
2012.11.

 あれ、名前、なんて言ったっけ。
 子どものみならず、大人もまた、名前が出て来ないことがある。いや、それならまだよいほうで、実のところ、名前をなんというか、これまでの人生で全く知らなかった、ということもしばしばである。
 ところがそれを調べる辞典というのがまた困る。そのものを言葉で説明するほうが難しいのである。それを説明するくらいなら、最初からその名前で呼びたいものなのだ。そこで、イラストや写真を見せて、それのこの部分の名前が何々であると示しておくのが効果的であると考えられている。以前にも私はそういう絵辞典を探したことがあるが、当時は非常に珍しかった。もちろん幼児用はある。しかし大人の使用に耐えるものがなかなかないのである。
 そもそもあらゆるものの名前について、そのようにして示すというのは不可能であろう。私が見出したその本も、分厚くてとてもじゃないが持ち歩くことなどできない、百科事典並のものであった。これが山野草だけとか、野鳥だけとかいう図鑑であるならば、まだ持ち歩ける範囲でも製作することができるのだろうが、とにかくものの名前、というのは無理なはずだ。しかも、えてして、その大部分については、私たちは基本的に知っている。何だろう、知らないな、とか知りたいな、とかいう部分の名前については、選ぶ基準も難しい。
 というようなわけで、ここに成立したハンドブックは、「日本の道具」に限定した代物である。このような絞り方が、成功の秘訣であろう。しかもこれは、実のところ、子どものためのものである。漢字にはふりがなが付けてある。それから、ひとつの道具のその部分の名称が知るされているわけではない。たとえば、お茶の道具のところには、「どびん」「きゅうす」「ティーポット」「ほうひん」「ゆざまし」「ゆのみじゃわん」「マグカップ」「コーヒープレス」「デミタスカップ」と並んでいる。果たしてこれで十分であるのかどうかは問うまい。私は玉露のような高尚な趣味はないので、「宝瓶」の名は知らなかった。子ども用にしては、なかなか渋く、詳しいようにも感じる。
 この本は、新書サイズくらいである。やや分厚い。264頁でも、しっかりした紙でつくられているからだ。大まかな項目は、食事・家事・学校・仕事・遊び、となっている。ただ読んでいても厭きがこないように、短く、しかも楽しく、そして的確な解説が続いている。この説明そのものを考えるのが大変だっただろうと思う。また、そればかりで厭きないように、楽しいコラムがあって、特定の項目についてだが、より詳しく、また別の角度から歴史や背景などについて説明している。こういうのも楽しい。つまり、調べる事典であるというよりも、読み物として意識されているということである。
 いかんせん、子ども用である。大人が見たら、知っているものばかりではあるのだが、かといって全部知っているわけでもない。へぇ、と思うことも度々であろう。改めて、人生でこれまで知らなかった、と脱帽するものもあることだろう。
 サブタイトルのようにして、「学研もちあるき図鑑」と記されている。たしかにそのくらいの大きさではあるが、実際持ち歩くかしらという気持ちをもつとともに、仕方がないかもしれいなが若干高いなあと思う私である。




Takapan
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