『ぜんぶ絵でわかるG 日本建築の歴史』
海野聡
エクスナレッジ
\2200+
2024.9.
建築関係のシリーズの一冊である。「木造住宅」とか「鉄骨造」とかのテーマでそれぞれつくられているが、やはりこの「歴史」は格段に面白いのではないか。
全編イラストで示される。へたに写真を持ち出されるよりも、その構造や特色が一目で分かる。必要な解説は十分収められており、小さめだが文字数は膨大である。イラストの中からも解説の吹き出しなどの言葉が添えられており、非常に読みやすい。建物の「名称」は、素人には全く知識のないところであるが、それらが丁寧に示されているのはとてもうれしい。
最初にはおおまかな年表がある。年表の半分がイラストである、というのも前代未聞のように思える。
そう、私たちは歴史において、耳慣れた言葉があるはずだ。高床倉庫や寝殿造、書院造や数寄屋造など覚えたものだ。東大寺南大門や平等院鳳凰堂などの名前も知っているし、修学旅行で現物を見て、「はぁ、これが」と思うのも常道であるだろう。だが、考えてみればその構造を詳しく知るわけではない。
そもそも考えてみれば、この建築というものは、人が住んだり集まったりする場所であり、安全に造られているはずである。柱や屋根の組み方が、どれほど工夫されたものであるか、想像を絶する知恵の結晶ではないかと思われる。世界最古の木造建築であるという法隆寺は、千年を超えて建材の釘により支えられ、また巧みに組まれた木の技術によって見事に建てられている。なにげないその辺りの寺社も、よく見ると木の組み方は簡単には理解できない構造であることが分かるだろう。
本書は、そうした建築の妙がすべて説き明かされている。歴史の授業で聞きかじったこと、言葉だけは知っているというものが、その歴史と意味を重ねながら、ここに解説されている。視覚的にも納得できるような形で、ここに並んでいる。
単に時代順に並べられているわけではない。まずは「都市」というテーマで、それから中心にあるのはたぶんやはり「神社仏閣」であろう。建築の粋は、基本的にそこに集められて展開してきたであろうからである。
それから「住宅」。貴族の住まい、武士の住まい。歴史というものは、えてしてお偉い方々のことばかり描かれるものだ。藤原のなんとかや、征夷大将軍や老中が、というのが歴史の学習の内容である。国民の大多数であった庶民は、そこに見えてこない。住宅にしても、確かにそうである。これには仕方がない事情もある。資料がないのだ。寺社は現物もあるし、いまはないものであっても、資料や図版が遺っていると分かる。優れた絵巻物には、しっかりと当時の風景が記録されていることになるのだ。だが、庶民の暮らしを絵巻物に、ということに普通はならない。
そこで、本書の優れたところは、庶民の町並みや暮らしまで、捜し出しているところである。もちろんそう多くはない資料だが、そこから推定することを含めて、普通の人々がどのような住まいで生きていたのか、それも平等に項目として取り上げているのである。最後のほうにまとめられたこのコーナーが、私はひときわ好きである。町家の平面構成から農家の構造までがイラスト化されている本書の価値は、専門家でもない私のような者が手にするには、非常に大きなものと感じられる。
明治以降の洋風建築については、貢献した人物がちらほら示されるだけで、それほど詳しくはない。たぶん私たちにも想像できる範囲に入ってくるのであろう。最後の解説は「文化財保護法」である。百年ほど前までは、保護の対象が寺社に限られていたことを、初めて知った。ここへ至るまでの過程も、これほど簡潔に、しかしはっきりと教えてくれる本には、これまで出会ったことがなかった。
本書の優れたところをもうひとつ伝えておきたい。「索引」が充実していることである。説明を施しつつ、索引の頁を割愛する類書が多い。本書はこのように、非常に丁寧に、そして楽しくつくられている。関係者の労苦を思うと、2200円程度では申し訳ないくらいである。歴史を学ぶ眼差しの中にも、本書をひとつ置いておくというのはどうだろうか。英雄の伝記と抽象的な政治用語ばかり並べる知識ではなく、人が「住む」という、正に「生きる」現場を、少しでも知ることになると思うのである。英語ならば、「住む」ことも「生きる」ことも、同じ「live」であるではないか。

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