本

『日本と世界の歴史対比事典』

ホンとの本

『日本と世界の歴史対比事典』
関真興監修・株式会社エディット編著
PHP研究所
\2940
2011.10.1

 図書館用であるかのような本で、なかなか個人で買う意欲が起こりにくいかもしれないが、なかなか刺激になる。子ども向けにするにももったいない。
 というのは、扱う事件は非常に少ないのであるが、見開き2頁の左を日本史、右を世界史とおいて、ほぼ同年に起きた大きな事件や発見などを対比させているという、ユニークな構成だからだ。日本史と世界史とは、別々に学ぶ。その中でときおり互いの関係がいきなり出てくるのが普通だ。また、それで仕方がない。しかし、他国との関係の中で、相手国の状態というのは実のところ大きな背景となるはずなのであるが、どうしても日本史なら日本史の立場での記述に終わってしまう。たとえば江戸初期の鎖国政策により、貿易はオランダと清だけになった、などと中学歴史で覚えるが、清が中国を支配したのは、鎖国が完成してから三年後であることが、この見開きから分かる。この清は漢民族の外から漢民族を支配する形で成立しており、いわば不安定な支配体制であったかもしれないのに、その後長く続くことを、私たちは知っている。そこは小学生のための資料である。その後の経緯や深い関わりについて言及されることはないのだが、大人はここで何故だろう、と疑問を抱く。また、調べてみたくもなる。
 知識は断片的ではある。しかし、ひとつの刺激をそこから受けやすいのは事実である。何かのアイディアが与えられる。そのような機会として、大人にも十分利用価値がある。また、大きな出来事についての事件のあらすじが、実に短い記述と地図や写真によって理解されるので、歴史の中でよく理解していなかったことが、まざまざと示されてなるほどそうだったのかという気持ちになる。えてして大人が歴史を学ぶ意義はそこにある。学生時代には覚えさせられただけであり、試験で点数をとるための手段としか思えていなかったものが、今社会を考え未来を考えるときの、ひとつの入口として作用するのだ。何も覚えていなかったら、そして何も理解していなかったら、それさえも不可能なのだから、学生が学ぶ意義は確かにある。そして大人になって、何らかの形でまた歴史を学ぶ。今度は自分で関心のあるところ、知る必要のあるところから入ることができる。
 もちろんこの本は、子ども自身が使うのにすぐれている。何か調べるときに大いに参考になるだろう。子どもが使うにはなかなか贅沢な本ではないかと思うのだが、それほどに中身が充実しているのも確かである。これほどに短い記述で、的確に歴史を伝えるというのは難しい。そして子どもにとっては過去であっても、大人にとっては先日であったかのような、平成に入るときのことと、ベルリンの壁が破れたこととでこの本の歴史は終わる。この歴史の続きをつくるのは、まさに私たちであるし、子どもたちであるのだ。




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