本

『日本手話のしくみ』

ホンとの本

『日本手話のしくみ』
NPOバイリンガル・バイカルチュラルろう教育センター編
岡典栄・赤堀仁美著
大修館書店
\1260
2011.4.1

 日本手話の文法書という言い方をしている。「文法が基礎からわかる」と表紙にもうたっている。とはいえ、専門書ではない。手話を学んでいる人ならば誰でも読める。ほんの少しばかり、文法の用語についての理解があれば十分である。英語の学習をしたか、あるいはドイツ語などの第二外国語も少し触れておけばおつりがくる。あとは、手話とろう者の言語についての一定の理解があれば問題ない。
 例外や詳細については思い切って省略し、重要な原理や要点だけに絞っているから、内容としてはごくわずかなものであるとも言える。私は一日、しかも一時間余りあれば全部に目を通すことができた。しかし、そのわずかなことを知るということは、収穫が大きい。
 これまでにも、ろう者と聴者との間の認識のずれなどを紹介する本はあった。それはそれでたいそうためになった。しかし、現象をたくさん知ったところで、それが何故であるのか、あるいはそもそも日本手話というものがどのように成立しているのか骨格のようなものを理解することがなければ、ひとつひとつ帰納的に事例を集めているに過ぎなかった。そこへ、これは確かな「文法」という形で提供してくれている。なるほどそういうことか、と膝を叩くことの多い一冊である。
 手話によるろう教育は、殆ど行われていないに等しい。鳩山一郎以来、どうあっても日本のろう教育は、聴者中心の立場で営まれ続けてきていたのだ。実際この本ができた今も、教育においてはあまりかわっていないと言わざるを得ないのだという。しかし、それではいけないということで、明晴学園という学校がつくられた。そこでは、手話を授業で用いる。当たり前なのではない。ほかでは、ないのだ。
 こうして手話とは何かを原理から考え、教え、また実践している教育機関であるからこそ、そのメンバーからこの本が生まれたのだ。手話の概念をどう教えればよいのか、どう伝えればよいのか、まだどこか試行錯誤かもしれないが、それを使命としている学校の人々が、この本を世にもたらしてくれた。
 教会のろう者にこの本を見てもらった。地域的な問題もあるが、知らないこともあったという。だがとにかく、通常の、単語置き換えの日本語手話とは異なり、ろう者の発想や、いつも自然とやっていることが、よく説明されているということだった。自然と身に付いていることも、このように説明を順序を追って説明してあるのを見ると、改めて理解する知識となりうる。そのような意味で、勉強になる本だと話してくれた。また、この中のいくらかの手話については、インターネットのサイトで動画として見ることができるという。手話はそのように、動画という手段により、その空間的な表現が可能になる言語である。サイトを利用するというのは、さらに親切な開示ということになるだろう。
 学習者に優しい叙述である。もっとこの分野は、整理され、まとめられていく可能性をもっていると感じる。この新しい分野の開拓が、より手話が共通言語へとなっていく道を整えてくれるようにと願っている。




Takapan
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