本

『なぜ福知山線脱線事故は起こったのか』

ホンとの本

『なぜ福知山線脱線事故は起こったのか』
川島令三
草思社
\1365
2005.8

 2005年4月25日月曜日の朝、その事故は起こった。
 最初、電車が踏切で車と接触、のような報道がなされていた。誰もが、何が起こったのか理解できていなかった。
 大惨事となった尼崎のこの事故は、その後、JR西日本の対応のまずさがクローズアップされたのと、その日勤教育と称する懲罰に関する尋常ならぬ体質も取り上げられた。メディア各社は、鉄道関係者の解説を必要としながらも、結局ハードではなく、ソフトにばかり原因や責任を求め続けた。その方が、分かりやすかったからである。
 しかし、鉄道アナリストとしての著者は、ハードと、それを採用したJRの考え方などに、鋭いメスを入れる。
 事故当日から、テレビ局に呼び出され、忙しく解説をし続けたことの状況報告から、この本は始まる。そして、コメントの一部を編集して放送されるなどの中で、いわゆるミスリードが行われていく様にも、時折触れている。マスコミの怖さだ。分かりやすいもの、都合の良い情報ばかりが先頭を走らされ、そうでないものはカットされていくのだ。そのため、世間に大いなる誤解が、この事故に関しても生じていったのだという。
 ハード面以外でも、たとえば、過密ダイヤが事故の原因であるかのように声高に叫ばれているが、このJR福知山線は、全く過密とは呼べない路線であることが、丁寧に解説されている。傍観者の思いこみを誘うのではなく、数字や事実との照合における検証が、きちんとなされていて気持ちがいい。ダイヤの余裕のなさの方が重要なのであって、このダイヤグラムを過密と呼ぶのは、明らかに間違っているのである。
 正直言って、私も、鉄道の仕組みについては、理解できない。この本の解説も、ある程度鉄道事情に詳しい人が理解しやすいように――だからこそ検証というものであるだろう――記述されているため、素人には、そのすべてを理解するのは難しいものと思われる。著者も、その点十分配慮しているとは言えない。
 だが、手っ取り早く著者の考えの要点を知るには、最後の「あとがき」をお勧めする。わずか5頁、ここにその思いが詰まっている。関西私鉄各社がとっている安全に対する対策を、JRが鼻で笑っていたような部分を、私たちは今後見張っていなければならない。そしてまた、それは私たちが何かを行うときにも、どのようにリスクを捉えていかなければならないか、の教訓としなければならない。今日、車のハンドルを手に取る際にも。




Takapan
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